別所温泉


28年振りかなぁ、信州の別所温泉に一泊二日の旅行へ行ってきた。
32年くらい前から28年くらい前のあいだに三回も別所温泉のKという木造三階建ての温泉旅館に泊まったことがあった。最初は夫婦で、次は会社の仲間五人で、最後は一人で。一人で来たときは、季節外れの春の雪が降っていた。車に三脚とカメラを積んで、近くの杏の花がたくさん咲く杏の里って言っただろうか?そこへ翌日に行くために泊まった。あの1990年の春は、会社の勤続10年目に与えられる休暇を桜やそのほかの花が咲く季節に合わせて取得して、自家用車を運転してはあちらこちらに写真を撮りに行ったのだった。
 そのKと言う宿は、少なくとも当時の温泉ブームの頃には、別所温泉で一番有名な宿だった。でも、昨年の春?倒産して売りに出されたそうだ。今回、そのK旅館の前まで行ってみた。近くの別の宿が買い取ってリニューアルして再オープンを目指すような記事を読んでいたが、行って見たところは、リニューアル工事が進んでいるようには見えなかった。
 今回の宿は北向観音堂の近くの小さな宿だ。部屋は入り口やトイレや洗面所などはとても狭く、昭和の頃なのだろうか、作られたまま大きく改装できずにいるように思えた。それでも満足度が高いのは料理がとてもとても美味しかったからですね。野菜がふんだんに使われた創作和食。
 別所温泉には国宝の三重塔があるお寺と、重要文化財の多宝塔のあるお寺と、上記の愛染桂の木がある北向観音、以上三つの寺院を巡りながら温泉街をぶらぶらするのがいい。すいません、お寺の名前を忘れているな。
 そのうち一つのお寺の庭に芍薬がたくさん咲いている庭があった。芍薬と言えば、森山大道が「写真よさようなら」のあとのスランプを抜け出すきっかけとなった「光と影」シリーズに収められたモノクロームの有名な写真があったことを思い出す。でも、頭のなかにその写真の具体的な構図まで思い出せるわけでもなかった。
 それでたくさん撮った芍薬の写真から選んだのがうえの写真なのだが、帰宅してから森山さんの芍薬の写真を見たら、もっと真正面からぐぐっと寄っている。それなのにいわゆる日の丸構図ってわけでもなく迫力があって、何十枚も撮った私の写真なんか一枚たりとも、肉薄さえできないのだった。ただ目の前に芍薬の花があって、花は逃げも隠れもしない。それでもこんなに違うものなのか!と驚く。
 別所温泉は新幹線の上田駅から上田電鉄別所線というローカル線に乗って行く。東急電鉄から払い下げられた電車が使われている。上田駅を出るとすぐに千曲川をまたぐ赤い鉄橋を渡る。むかし来た時には、この鉄橋を渡る電車を写真に撮るためにとなりの国道の橋まで行ってみたんじゃなかったか?
 上田の街は最近、何軒かのおしゃれな古本屋が出来ているらしい。そのうちの一軒に行ってみた。カレーを食べて珈琲を飲んで、一冊だけ古本の短編集を買った。
 いい天気だった。でも今日で連休は終わりです。

 燕です。

 宿の小さな一人用風呂には檸檬が浮いていた。