江の島サイクリング サッカー観戦


今日からゴールデンウィークの五連休。
 寒くなると乗らなくなり、春が来てもうっかり忘れていて、ゴールデンウィークの頃になると思い出して、マンションの自転車置き場に置きっぱなしだった自転車を整備する。整備などと書くと、卓越した知識と技能を持った上でそれに当たっているかのようだが、ぺちゃんこになってるタイヤに空気を入れて、全体をくまなく濡れ雑巾で拭いて、チェーンに機械油を塗るだけのことである。屋根のある自転車置き場だから雨に濡れることもないおかげか、早々にダメにならないからなのか、それだけで調子は上々になる。
先日、小津監督が定宿にしていた茅ヶ崎館で映画「晩春」を見た。これは茅ヶ崎市美術館で開催している「自転車の世紀」展の関連イベントで、何故なら、この映画には若かりし原節子が鎌倉(由比ヶ浜辺りからか)から茅ヶ崎までサイクリングをする場面が有るから。
未婚のまま当時では晩婚の年齢になる27を迎えた紀子がそのときにサイクリングするのは、父の原稿の校正や清書を行っている、そこから推定するに、文筆業もしかしたら学者の父の、担当編集者、あるいは学者だとすると父が教授でその助手とかなのか、その長谷川と言う男と一緒なのである。この長谷川には許嫁がいるのだが、このサイクリングの場面の二人は友人どうしと言うよりももう少し親密な感じがする。原節子演じる紀子は、サイクリングのことをその晩に笠智衆演じる父に話すときに、長谷川さんと七里ヶ浜(いや、江の島だったかな)の方へサイクリングに行ったのよ、と言い、そのあとに、茅ヶ崎まで行っちゃったわ、と話す。父親は微笑みながら、そうか、と答えるだけのような場面だ。
この映画は、父親と娘の関係に焦点を当てている。例えばWikiでこの映画のあらすじを調べると、そのことだけが書いてある。
即ちこんな傍流を気にしても仕方がないが、長谷川と紀子のあいだの心情はどうなっているのか?これが妙に気になってしまう。これには今と違う見合い結婚や許嫁にまつわる当時の常識があり、そのもとであれば誰も間違いなど起こさない了解でもあったのかもしれないが、紀子は許嫁のある長谷川と茅ヶ崎までサイクリングをしているし、その後日に長谷川は紀子を演奏会に誘う。演奏会を紀子は、奥さんになる人に悪いと言って断るが、それで長谷川がぽつねんとした様子で空席の隣で演奏を聴く場面も映る。
茅ヶ崎に住んでいるからよくわかるが、由比ヶ浜から七里ヶ浜(あるいは江の島にせよ)の距離にたいして、七里ヶ浜から茅ヶ崎は何倍か遠距離である。紀子になんの屈託もなければ、最初から、茅ヶ崎までサイクリングをしたと言うのが普通なのではないか。なぜ、最初からそう言わないのか。紀子の心には、許嫁のある長谷川と、七里ヶ浜(または江の島)ならまだしも、茅ヶ崎までサイクリングをしてそれがまるで恋のように楽しかった・・・とか?そういう気持ちにちょっとした疚しさが生じているのかもしれない。その微妙な、もしかしたら自分でもわかっていない感情が、この最初から茅ヶ崎まで行ったとは言わない場面に現れているのではないか。深読みかな。
 今日は、茅ヶ崎から江の島までサイクリングした。小田急片瀬江ノ島駅近くの無料駐輪場に自転車を停めて、徒歩で船乗り場へ行き、船で江の島岩場へと行く。船乗り場の観光客を誘う口上によれば「岩場まで徒歩だと40分、船だと7分。帰りはゆっくり歩いてもいいですよ」とのこと。私は行も帰りも船にして、引き潮の岩場の潮だまりで遊んでいる家族連れやカップルの写真をたくさん撮った。
 風向きのせいで、行きはペダルが重く、帰路はすいすいだった。すいすいとは言っても、映画の原節子がずっと微笑みながら楽しそうに自転車を漕いでいく、実際にはあれほどの余裕はないな。道には砂が浮いていてタイヤを取られるときもあったし。
 いったん帰宅してから、夕方、平塚のBMWスタジアムへ行く。ベルマーレの試合を観戦。相手は山口。今年はじめてのスタジアムでの観戦である。昨年J1からJ2に降格してしまった。このシーズン前には、菊池が浦和に、長谷川が大宮に、三竿が鹿島に移籍した。その前の年には、秋元が東京に、遠藤航が浦和に、永木が鹿島に移籍した。そのぶん若手や他チームにいた何人かの有力選手を獲得しているものの、全体の戦力はじり貧だろう。今日の試合もなんとか1-0で勝ったが、内容はタジタジになっている時間もあった。
 銀塩換算480mmの望遠で写真を撮ってみる。決定的チャンスを写真に撮りたいが、決定的チャンスはファインダー越しなどではなく、ちゃんと見ていたい。さて、どっちにするか。写真を撮る方を選んだり、見る方を選んだり、行ったり来たりな感じがする。それでも唯一の得点場面は写真を撮っていた。この一枚だけ。ほんの零コンマ何秒か前だと、背番号2の俊介選手がシュートを蹴っている決定的瞬間があった。この零コンマ何秒か後だと、俊介選手はこっちを向いて両手を突き上げて走ってくる。その場面はもうファインダーから目を離してしまった。
 スポーツ写真の決定的瞬間を観戦のついでに撮ることは無理であることがわかった。誰かひとりの選手に決めてひたすらおいかけてシャッターを切るのが成功の秘訣かもしれない、などと言うのは素人考えだろうか。
 シャトルバスで平塚駅へ、JRで茅ヶ崎駅へ。駅近くのひだまり食堂で、パイコー飯、辛い某餃子、レモンサワー。この店の暗めの照明とカウンター席のすみっこは居心地がよい。飲めないのにレモンサワーを頼んでしまった。ウーロン茶前提で平気で居酒屋へ入る孤独のグルメの下戸の主人公のようにはできず、残すのが判っていてもアルコールを頼んでしまうのだ。