光の箱

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もう二十年かもっと前に出張で愛媛県西条市に行ったことがあった。それが金曜日で一緒に出張したメンバーは西条にある取引先との会議が終わると、その日のうちに関東に戻ったが、私は電車で松山に出て、駅近くの小さなビジネスホテルに一泊して、翌日の土曜に道後温泉あたりを散歩してから帰ることにした。そうだ三津浜にも行ったと思う。金曜日も土曜日もずっと雨だった。金曜の夜はなぜかインド料理やの前を通ってふと食べたくなり、カレーを食べたと思う。その金曜の夜にだんだん暗くなる中、通り過ぎる路面電車のなかの明かりに照らされた人々が妙に幸せそうに見えたものだ。もちろんそこに乗っているひとりひとりはそれぞれの目下の課題に頭を悩ませていて、幸せを感じている時間なんかないのかもしれないが、ひとり旅は自分の希望だったとはいえ、そのひとり旅の雨の夕暮れ時には幸せを乗せた光の箱のように、路面電車が見えたのだった。以来、路面電車の走る町はそれだけで好感度上がる私ですね。そしてこのときに感じたことをいつも思い出す。思い出すけれど、いまはそこに幸せが載っているようには見えないけど。

泊まったホテルの部屋は七階で、真下に天文館の駅から鹿児島中央駅方面とのあいだを行き交う電車が見下ろせる。向かいのビルの赤い椅子のレストランで食事をする人も見えるがレストランはがらがらでテーブル席は一組しか客がいない。部屋はこの大通りを見下ろせる窓際にブラインドが装備されているシャワールームと脱衣洗面ルームがあって、ベッドルームはその内側の窓のない場所に薄暗いルームライトのもとにしつらえてある。ベッドの周りにはヘッドボードのような寄り掛かれる作りがエル字形に回されていて囲まれた感じが居心地が良い。なんか、しっかり眠れることをコンセプトにしたホテルらしく、そういう常識外れな感じにびっくりするが、これが居心地が良くて、しかも実際によく眠れるのだった。

そのシャワールームから下を走る電車をこうして流し撮りしてみる。何枚も何枚も。難しいものですね、流し撮り。何十枚も撮ってそれなりに止っている写った駒はこれくらいでした。で、やっぱり路面電車はいいですね。

今日は快晴になった。鹿児島に来たのはたぶん10年ぶりなので、2010年の春、五月頃かな、四月かもしれないけど、このブログをそこに遡ると、九州縦断旅行をした日のことが書いてあるはず。あのときは初日の柳川だけが晴れていて、あとはずっと雨または曇りだった。鹿児島も小雨か曇りで、当然桜島は雲の中に隠れてその全容は見えなかった。しかし今日は見事に見ることが出来ました。あまりにくっきり見えるから、予定してなかったのに、フェリーに乗って渡ってみました。

ひとり旅って必ずしも自由気ままでひたすら楽しいわけではない。私の場合。ひとりで来ていて、誰かと来たかったな、そうしたらもっと美味しいものを食べたり、その場その場の旅の局面での感想を言いあったり、そこからいろいろと議論というか話が弾むかもれしれない。という誰かとの旅に憧れつつも一人で計画を作って、それをこなしながらも、やはり知らない町を訪ねることにより感覚は尖っていて、いろんなものが見えたりもするだろう。なので結局はひとり旅がそういう気持ち(必ずしも楽しくないなと思う気持ち)も含めて好きなんだろう。不在の誰かを考えるってことは、CLOUDY SIDEって感じがする。SUNNY SIDEではなくて。それもまた不在の誰かと一緒にいるようなことかもしれない。

ほぼ下戸ですから、誰かと一緒なら、そいつにかこつけて居酒屋などで気ままに美味しいものを頼み、そいつに飲んでもらってこちらは食すことができますね。ひとりで居酒屋は井の頭五郎ではあるまいし、下戸には勇気がいるものです。

 

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