午後は不安定な天気の予報


朝、車で湘南平へ上がってみる。テレビ棟からこの写真のように湾曲した相模湾の海岸線と、それに沿って広がっている町を見下ろせる。朝と言ってももう9時近く、天気はありふれた、昨日の快晴から続く晴れで、風景写真を撮るような絶景ってわけでもない。そういえば、二十年かもっと前、会社の(私のいた事業所ではなく別の事業所の)写真部の、みんなが持ってきた写真にあれこれ意見を言うような月例会に、ゲスト参加したことがあったが、風景写真は朝早く起きる努力なしには撮れない、と主張する方がいてびっくりした。しょっちゅう思い出す。たぶんこのブログも八年くらい続いているから、何度かこのことを書いただろう。そういう尺度で測ればこんな写真はどってことのない写真なのだった。それでも、この相模湾を見下ろせる風景が目の前に広がった瞬間には、どんな天気だろうが、どんなにありふれていようが、わぁー!と思うのだ。わぁーって何よ?と聞かれてもわぁーっとしか言いようがない。感嘆とか感激なんていう単語とはちょっと違うんだけど。
 なぜ、最近はこんな風に海へ行ったり、海を見下ろせるところへ行ったりばかりしているのか。ひとつきかふたつき前に、二十代三十代に湘南の海ばかり撮っていたころのスライド(ポジフイルム)を接写した。そのころから、回帰現象のようになってしまったのか。ここ数年ずっとそういう気配があったが、いよいよノスタルジーに足元を絡まれ、流れている今という時間を、ノスタルジーに浸ることにしか使わなくなりつつあるのか。それは流れているこの今を、どう過ごせば良いのか?なんていう、若いころには考えもせずに出来ていたことが、それは例えば「流行を追う」ってことでもいいのだが、そういうことができなくなっているのか。
 なんていう厭世的な見方が出てきてしまうのは、昨日もブログに書いたウェルベックの本を読んでいる影響もあるだろうな。ウェルベックの「ある島の可能性」では、2000年後の「新しい」遺伝子操作された一人の男が、そこに至る過去(現在からみると近未来)に起きた人類の社会や宗教や政治の大変化、戦争に伴う人類の大減少を、二十数世代前の祖先(この小説の主人公)の個人史を中心にしつつ明らかにしていくような内容だが、そういう人類とか社会とか宗教の近未来の「崩壊」のような予兆よりも、わたし的には、昨日だか一昨日だかにも書いたけれど、この主人公の晩年の寂寥感を読むのが厳しいのだった。
 湘南平から降りて、平塚の馬入のデニーズの駐車場に入ったが、満車で空くのを待っている車さえいる状態だったので、すぐに諦め、茅ヶ崎の森ノ珈琲へ。11時までだったか珈琲を頼む前提で安価に食べられるモーニングプレートを食べる(スクランブルドエッグの方)。そこでいよいよ長い小説を読み終える予定が、意外と進まず、冷房がやや寒くなって諦める。帰宅してから三十分くらいで読み終わった。
 読後に読んだ、訳者の中村佳子が「解説」にこんなことが書いてあった。
『読んでいるうちに(中略)指先や足元が冷えきって、もうこれ以上先を読み進められそうにもないと思ったときに、それがある特定の人物の、きわめて私的な物語なのだということを思い出してもらいたい。ときにそれがいかに予言的で、あるいは普遍的で、精緻なデータからはじき出された、逃れようのない人類の道行きに見えても、冷たく冴えた現代の神話のように見えても、思い出してほしい。ここで語っている男は人類の代表選手などではない、(中略)名前があって、顔があって、きわめて局所的な、私的な立場を持つひとりの人間なのだ、と。逆説的だが、実際、訳者は何度かこうして、物語のありありとした現場に復帰した。』
すなわち、この小説を読むと人類の暗く絶望的な近未来を痛感して恐怖におののく読者がいることを想定して、そこからの抜け出し方を示唆しているのだ。しかし私はそこではなく、もっと普遍的な老年への恐怖の方が重いのだった。

 リビングルームに掃除機をかけるのを手伝う。妻がちょちょいと作ってくれた簡単な昼飯を食べる。BSテレビでビートルズ来日50周年記念特番の再放送を見る。四時になり妻が剥いてくれた梨を食べる。このまえ圏央道だったか東北自動車道だったかのどこかのSAで買ったきな粉の塗してある甘いお菓子を食べる。包装紙を捨ててしまったのでどこのなんていうお菓子だか不明。俳優の六角さんが「呑み鉄」と称して鉄道に乗っては行きついた町で酒を飲むという番組がビートルズに続いて始まったのでそれも見てしまう。さらにファンが選んだウルトラシリーズベスト10第8位のウルトラセブンの、これもさっき見終わったばかりなのにもうタイトルを忘れてしまったが、人間よりさきに地球にいた海底人がウルトラ隊にやっつけられてしまう話を見る。アンヌ隊員のひし美ゆり子が美しいなと思いちょちょっと調べたらいまはもう69歳だって。冷房の効いたリビングルームでこうして午後の時間が過ぎていく。途中二回、大雨が通り過ぎて、すぐに上がり、日差しがさし、するとセミが鳴き始める。朝の予報通り午後には不安定な天気になった。

 夜になり、茅ヶ崎駅まで出て、駅前のTSUTAYAでDVDを五本千円で借りてきた。

 昨日から今日にかけて読書中や車の中で聞いていた音楽
ボブ・ディラン「欲望」、センチメンタル・シティ・ロマンス「シティ・マジック」、ジョー・パス&レッド・ミッチェル「いそしぎ」、桑名晴子「ムーンライト・アイランド」、アート・ファーマージム・ホール・クァルテット「コンプリート・ライブ・レコーディング」、矢野顕子「AKIKO」