春なのに春を待つ気分

 在宅勤務を17:30に一旦切り上げて、オールドレンズを装着したカメラをぶら下げ、近所の川沿いの桜を見物に行く。写真の山桜と、対岸には10本ほどのソメイヨシノや枝垂れ桜などが並んでいる。ライトアップされるわけでもなく、屋台が立つわけでもなく、夕方の犬の散歩の人たちやジョギングおじさんがときどき通るだけだ。この山桜の花は真白で小さく、まるでスズランの花が桜になったように見えた。日が落ちて、だんだんあたりが暗くなる。最初に暗くなった川の流れの方からギャァと、姿が見えない鳥が大声で鳴いた。昨日までの雨で人が踏み固めた細い路はまだ柔らかい。花を付けている桜のほかは、まだ新緑を開いていない木々が多い。そんな一本を見上げたら黒々と烏がシルエットになって止まっていた。目が合うと、どこかへ飛んでいく。川沿いの散歩道から赤い橋まで来てそこからバス通りを家まで歩いた。途中の魚の店で、生ホタテの寿司(五個)と鰤の寿司(四個)が半額になっていた。家に帰ったときはもう夜になり、真上の空に三日月が見える。数か月前に最寄り駅の駅ビル前に出ていた数日限定の青森県フェアで買った吟烏帽子という名前のお酒を小さな猪口に注ぐ。山葵醤油をちょいと端っこに付けて生ホタテの握りを口に入れる。甘さが広がる。

 夜になると、もう春なのに、まだ春を待っているような気分がやって来るのはなぜだろう。明日もどこかで桜の花を見たいな。髪が伸びすぎているから近々床屋へ行きたいな。ずっと本棚に置いてあったのにまだ読んでいなかった小説を読み始めた。