再びの雪


 一週間経って、また雪が降る。今回はこの海に近い町はすさまじい降雪量だった。特に夜になってから。

 昼前にはまだそんなに積もってなくて、都内で、仕事の合間の時間には眼科へ行った。ここひと月くらい左目の上まぶたの裏側に異物感があった。最初はマツモトキヨシで買った「異物感」に向いた点眼薬を入れれば、異物感が消えたので、それでごまかしていたが、ときどきそれが再発しているうちに、一昨日と昨日と今日はずいぶんごりごりして、仕事で誰かと面と向かって話していても左目だけ涙目になっていた。眼科ではまず角膜に傷が発見された。医師はそれが原因ではないかというが、傷の位置は黒目の横の白目のところで上まぶたの裏には当たらないからちょっと半信半疑、違うんじゃないか?と思った。医師は、ひと月くらい前に目に何かが入り、目をごしごしと擦ったことはなかったか?と聞いてきた。しかし、そりゃときどきは目をこすったりするだろうし、そんなことイチイチ覚えていないのだ。イチイチ覚えてないよ、と思いながらも、いざ聞かれると、ちゃんと覚えてなくて怒られているような気分になる。なんだかアリバイを証明せよ、と迫られているような感じなのだった。しかし覚えてないものは覚えてない。
 次いで、ベッドに横になり、左まぶたを裏返された。すると小さな角膜結石があるという。これが原因じゃないだろうけど一応除去しておこうと言われ、よほど小さいものだったのだろう、その場でちょちょいと除去してもらった。それから点眼薬を薬局でもらった。その後は異物感がなくなったので、傷と結石とどっちが原因だったのか判らないが、まあ、よかったよかった。

 夜、東海道線が大雪で停まる寸前にかろうじて家族のSが都内から茅ヶ崎駅まで帰って、というかたどり着いた。もう積雪が10cmを超える勢いで(翌朝には吹き溜まりは40cm、平均でも25cm以上になっていた)ものすごい風が吹いているなか、駅まで迎えに行った。Sが傘を持ってないというから自分のとSのと二本の傘を持って家を出たのだが、傘をさすことなどまったく不可能で、結局はレインコートを着て、そのフードで頭を覆い、歩くしかなかった。北風で往路は後ろから雪が吹いていたからまだよかったが、Sと合流して一緒に歩いて帰るときは正面から小さく風に乗った速い雪が顔にバチバチ当たるから痛い。さらに途中にある二か所の高層マンションのところはすごい暴風で、前に進むことさえ難しいのだった。
 それでも必死の思いで家に帰りついた。よかった無事で。にもかかわらず、あー防水のコンデジを一台持っていればよかったなあ、と写真を撮りたかった後悔が発生する。真っ白のなかにナトリウム灯がオレンジに光り、もう車は一台も走っていないから、車道を全部使って、帰宅を急ぐ人たちが、ただの一人も傘をさすことが出来ずに、前かがみになって、コートや長い髪やマフラーが風に激しくゆすられるのを直すこともできずに、一心不乱に歩いている、そういう光景を見たから。