珈琲をめぐる冒険


 ここ十日ほど、とある写真の賞に応募するためのブックを作っていた。いままで読み込んだことがなかった写真を、フイルムをチェックして選び、新たにフイルムスキャナーで読み取った分も合わせて、候補写真を約三百枚セレクトし、Lサイズにプリントし、それをノートに貼ってみて、順番を試行錯誤した。結果64枚に絞り込む。そののちに、完成のブックサイズを決めて、それぞれのページの写真の大きさやレイアウトを決める。ついで、その大きさのデータを作り、プリントアウト。A4から少し詰めた変則寸法にしたために、プリントを裁断したり。途中に何か所か入れる文章を考えたり。そんなこんなで、いままでで一番、リキの入った物になったが、リキが入ったからその分必ずいいものになるとも限らない。リキが入ったと感じるのは、そういう作業をするのに、数年前や十数年前に比べると、同じ仕事量でも、さくさくと効率的な作業が出来ずに、時間が掛かってしまうから・・・という面も否めない。そのうえに、目は疲れる、肩は凝る、で肉体的疲労も甚だしいのだった。やれやれ。この十日のうち八日くらいは、肩凝りからの頭痛で、ナロンエースを毎日飲んで頭痛をやり過ごしていた。

 日曜日3/2、昨日の土曜日にすべてのページを揃え終えたものを持って、始発のバスに乗り駅へ、茅ヶ崎駅から上り電車に乗り、横浜駅西口のキンコーズへ行って、製本をしてきた。朝、8時15分ころに着いたので、お客さんはほとんどおらず、ものの十分も待たないくらいで製本が出来てきた。小雨の中、横浜駅相鉄ジョイナスに戻り、一階の、まだ開店したばかり(8時半開店なのかな)らしいサンマルクカフェで、朝食としてシュガーの塗ってあるような丸いパンと珈琲。それを食べながら、出来上がったブックを確認していたら、文章の一か所にミスが見つかる。昨晩、ワードで校正したあとに保存しないでプリントしたってことのようで、最後の文章がうまくつながらず意味不明になっている。
 やむなく、一旦、茅ヶ崎自宅に帰宅して、その箇所に正しい文章を貼りつける。それから宅急便でブックを応募先に送った。やれやれである。

 先週の日曜日に久しぶりにニセアカシア編集会議なるだらだらとした写真同人ニセアカシアの集まりがあって、いや、だらだらでもなくてちゃんと少しだけでも進んだけれど、そのときに行った下北沢のとあるビルの二階にあるカフェにあったチラシをなんとなく取ってきて、帰宅して眺めたら、渋谷のイメージフォーラム(単館系映画館)で3/1から上映される「珈琲をめぐる冒険」というドイツ映画のチラシだった。そのチラシを眺めたり読んだりしていたら、これはなんだか行ってみたいぞ、と思った。ずっとブック作りに専念していたのが終わったので、よしこれも何かの縁、この映画を見に行こうではないか、と決めて、さっき横浜往復してきたばかりなのに、またぞろ電車に乗って渋谷へ、傘をさしながら歩きイメージフォーラムへ。映画は、モノクローム作品で、ある若者の、運に見放されたような一日を描いている。珈琲が売り切れていたり、高価で買えなかったり、等々さまざまな理由で、一日のうちに四回か五回か六回か、珈琲を飲もうとする場面で珈琲にありつけない、というのはまあ一つの象徴であって、彼をめぐる様々な些細で、でも意味深い出来事が次々起こるのだった。その出来事は、あまりに派手というわけでもない、(原作またはこの映画のための脚本の)エピソードの選択の「頃合い」がなかなかいいと思える。主人公の若者は、優柔不断で何事にも集中できず、いい加減で大甘のボンボンではあるが、しかし、基本的には優しい人であって、それを現在の若者像の象徴として肯定的に見たくなる。肯定的になれるから面白かった。肯定的になれないとつまらない映画だろう。
 ジョアンナシムカスが演じる若い女性の一晩を描いた「若葉の萌える頃に」でしたっけか、あれの2010年代の男性バージョンって感じもする。
http://www.cetera.co.jp/coffee/
 女性のひとり客が多かったな。それもなんだかキレイなお姉さんがたくさん。

 (話は戻って、)写真は、そのブックの候補にして結局は使わなかっ写真。1995年ころに、まだそのころには存在した横浜ドリームランド(遊園地)内にあった、そのころすでに相当にレトロな機械を集めて、というより、残存していたゲームセンターがあって、そこはいつもガラガラだった。そのゲームセンターで子供たちを遊ばせながら、オリンパスXAとか富士フイルムのティアラとか、当時よく使っていたコンパクトなフイルムカメラで写真を撮った中の一枚。村上春樹の1979年のピンボールの倉庫のような動態保存の墓場、とは違うけど、でもちょっとはそういう感じもなくはなかったかも。
 これ多分、蛍光灯の反射が入らない位置を捜していたら、こんな変なアングルになったのだと思う。

 (再び映画の話からその続き。)映画を見て、小雨のなかコンパクトデジタルカメラを取り出してスナップをしたのだが、いつもはAUTOになっているISOが80にしてあることに気が付くまで、全部の写真が手振れしている。手振れ補正機能が搭載されていても、歩きながらのノーファインダースナップでシャッター速度が1/10秒とかなんだからどうしようもない。渋谷から中目黒に移動したのだが、中目黒に着いてしばらくしてからその設定ミスに気が付いた。しかし帰宅して写真を見たら、それ以降のぶれていない方にだって面白い写真が残っていないのだった。

 中目黒のImpossible Project Spaceで沢渡朔写真展「雨」を見る。
http://impossible-tokyo.tumblr.com/
雨の暗い都会のスナップ、寂しい感じのスナップと、女性ヌードを組み合わせた展示。とくにヌードは一人ではなく、女性二人の秘密めいた行為を暴いているようで、これはドーンという暗い。暗いが、完全な漆黒ではなくて、なにか黒に近い臙脂色というような。謎めいて。うごめいて。

 朝、サンマルクカフェに行ったというのに、茅ヶ崎駅に戻った夕方にはドトールで休む。店内満席に近い状況。とっくに珈琲を飲み終わったジャージ姿の太ったおっさんとかが眠っていたり、学生さんはパソコンまで開いて勉強していたり、そういう長期滞留客がだんだん溜まってしまったという感じで、席の確保すらままならない。これも雨の日曜の夕方という条件の結果なのかな。


これが出来上がったブック