波のない日


 由比ヶ浜では海の家の取り壊し工事が急ピッチで進められていた。砂浜には工事車両が入り、すでに解体された骨組みが積まれた置き場があり、その合間の轍の残ったところを波打ち際へと抜けていく。平日で、夏も終わり、人出はほとんど見られない。本を読んでいる西洋人の男性が一人。私の数十メーター前を歩いているカップルは波打ち際で立ち止まり記念写真を撮ってから、波打ち際に沿って西へと歩いて行く。それくらいしか人影を見ない。作業靴と作業ズボンを履いて、ヘルメットをかぶった工事関係の人たちは、海の家の骨組となっていた資材をトラックに載せるためにクレーンで吊り上げようとしている。クレーンの操縦をしている人と、吊り上げる束ねられた資材のすぐ前に立って、クレーンに声と手振りで場所を指示する人と、その助手なのだろうかただ立っている人と。風はさらさらと吹いてきて、戸惑うように抜ける。ときには消えていく風があるのだろうか。見えないから判らない。
 江ノ電で藤沢へ。初めて入る、古いビルの地階のハンバーグの店。昼食。プレーンのハンバーグもあるのに、グラム数を選びついでトッピングを選び最後にソースを選ぶべし、という説明書きを見ているとトッピングを選ばなければいけないと思い込む。そこで目玉焼きがどかんと載ってかつその下にはチーズが敷かれているのを選ぶ。というのもメニューで写真紹介されていた「代表例」がそれだったから、それがお薦めなんだろうなと。これも思い込んだから。私は最初の客でそのあとカップルや年配の母親と大学生くらいの男の子の二人連れが入店。彼らは誰もトッピングなど頼んでいない。それではじめてトッピングなど頼まなくていいんだと判る。熱いハンバーグは熱した溶岩プレートのようなのに載って出てくる。選んだソースは味噌とデミグラスソースを混ぜたような味でこれが意外なまでに美味しい。だけどなんだか熱いうちに次々と頬張ってしまってよく味わったとは思えない。そう食べ終わってから反省している。満腹だから反省の結果やり直すことが出来ない。
 タワーレコードに寄ってみる。ジャズの半額のコーナーでどこの誰かも知らないドラマーのアルバムを、好きなスタンダード曲「春の如く」が入っているという理由だけで買ってみる。Jussi Lehtonenという人の。帰宅後HPを見たら1977年生まれのフィンランドのミュージシャン。古さと新しさが混じりあった勢いのある演奏だった。
 久しぶりに休暇を取った何も予定のない平日。明日も休暇で、明日は姪の結婚式と披露宴でしゃべったり乾杯の発声をしたり写真を撮ったりしなければならないのだ。
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