日本橋


 東京駅から日本橋の方へと、写真を撮りながら歩く。デパートの催し場で木村伊兵衛が1950年代後半にパリに外遊したときに撮ったカラー写真を並べた写真展を見物する。
 先日この写真展をすでに見た某さんが、まぁなんて言うか驚きはなかった、と言っていた。
 いま、それから半世紀以上経ったあいだに親しまれたたくさんのロックと呼ばれる流行歌の同時代の数年分の数千曲を聞いた人が、はじめてビートルズを聴いて、ビートルズって言ったってたいした驚きはなかった、と言うような感じかな?
 それにしても、木村伊兵衛のスナップの視点と構図の妙は神業だが、当時のパリの粋な感じは、素晴らしいですね。所詮は「現代」に属するわけですが、それでも人々は世の中の発展が幸せに必ず向かっていると信じて疑わなかったころのカラフルな心が現れているみたい。
 おでんの「お多幸」に列が出来ている。十年近く前に、須田一政写真塾はこの店の近くで開かれていたので、そこに参加していた私は、月に一度、日本橋へ通っていた。熟後の飲み会の出席率は33%か25%かの劣等生だったが、細い階段を何階かまで上がり、おでんを食べた。〆で食べる豆飯(とうめし)が美味しかった。
 あの頃の私の写真はトーンカーヴをコントラストが高まる方向にS字に画像補正をして、目がチカチカするような写真だった。無邪気にデジタルで遊んでいたわけで、はしたないものです。