冬の公園のひととき

 

 相模湾に面した海沿いの町の冬は晴れて乾燥した日が多い。気温が低く北風が強い寒い日であっても、乾いた木々の枝や葉は陽の光を受けて光っている。乾燥した明るい土と、散らないまま残った枯葉をまとった低木が正面に見えるベンチに座る。ポケットに入れてきた文庫本を少し読み進めようか。平日の植物園は人も少なく、ダウンジャンパーにネックウォーマーで寒さに備えた服は、陽を受けているとほのかに暖かい。落ちていない枯葉は風を受けるとカサカサと鳴る。上下に二つレンズが並んだ、上のレンズがファインダー用で下のレンズが撮影用の箱型の二眼レフカメラのシャッター音は、枯葉がカサリと動くときのようだと思う。だけどこのときにそういう種類のカメラを持っていたわけではないんだけれど。

 そんな洒落たものを準備することは出来ない質なんだけれど、もし小さな保温水筒に温かい飲み物を入れてここに持ってくるとしたら何が良いだろう?ホットコーヒーやホットティー、いやいやいっそホットワインかしら。木村伊兵衛の写真に和服を着た初老の男が三人くらい、桜の頃の公園で、瓢箪とっくりから猪口に酒を注いで飲んでいるような写真があったような。あれは熱燗なのかな?いっそアルコール度数がものすごく高いどこかの国の酒を口に含み、それを霧状に吹き出しながら火を付けようか。そんな馬鹿げたことはやらないからこそ妄想する。平日の公園に火吹き男が登場!やれやれ・・・そういえばバブルの頃かその少し前に、飲み終わったバーボンの瓶に煙草の煙を入れて、そこにライターから火をつけるようなことをする奴がいたけれど、あんなことは今は誰もやらないのか?女の子をちょっと驚かせて、それからきれいな炎を見せてうっとりさせて・・・という口説きの「技」の一つだったのだが、そこにたどり着く前にへべれけに酔ってしまって、しまいには青い顔になっていてはどうしようもない。

 話変わって・・・。ちょっと長く車を運転する前や、どこかに遊びに行く前にコンビニエンスストアに行きなにかお菓子を買ってしまうのは、子供の頃の遠足気分が抜けていないのか、たいていは封を切らずに家に持ち帰ることになり、いま、部屋には小分けにパッケージされた何種類かの甘納豆が入ったものと、ギンビスたべっ子どうぶつビスケット(ミックスベリー味)があるのだ。共にローソンで購入した。後者は動物のかたちのビスケットにLIONとかHORSEなどが焼き印の手法なのか、書かれている。これはちょっとマクロレンズで撮る被写体にしてみたかったのだがまだ撮っていない。ちょっと撮っておきたいものとしてほかに牛乳石鹸?ですかね表面にCOWという文字と牛の形がレリーフ上に描かれている赤い箱と青い箱のある石鹸。新しいときだけそのレリーフがわかるが、一回目の風呂でたいていすぐに消えてしまう。あのレリーフをうまく光線を当てて浮き上がらせてマクロで撮ってみたいと、たぶん10年以上前からときどき思うのだが、いつでも出来ると思うと出来ないものだ。

 こんな風に次から次へと頭の中で考えている主題が変化しながらあれこれ思い出していると読書がおろそかになってしまったな。結局一ページも読まないままにベンチから立ち上がる。ホットワインというのはただワインを電子レンジでチンってやれば出来るものなのだろうか?まぁ、どうでもいいか・・・ワインなんか飲まないし。空になったバーボンの瓶に火を落とすときには、その前にいちど瓶を振るのが必要だったんだっけ?別にバーボンじゃなくても、ウイスキーでいいんだっけ?

 フォーク歌手みなみらんぼうウイスキーの小瓶という佳曲があった。♪ウイスキーの小瓶を口に運びながら、涙と思い出を肴にして、酔いつぶれてしまいたいなどと、思っているこの僕を、貴女が見たら子供のようだと、きっと僕を笑うでしょうね、わかっていながら飲む男の気持ちなど、貴女は知りもせず♪

 また風が吹き、二眼レフカメラの小さなシャッター音のように枯葉がカサリカサリとなるけれど、その音は一つじゃなくていくつもだ。二眼レフカメラで連写をすることなんか出来ないだろうから、カメラを向けているのは大勢のカメラマンってことになる。よし、カメラに向かって胸を張り、にかっと笑ってやろうか・・・