煙草のドーナツ状の煙

 2001年に亡くなった父は、煙草を吸う人で、子供のころに「やってやって」とせがむと、口から輪っかになった煙草の煙を吐き出してみせてくれた。輪っかを出すときに、頬を指先でトントンと叩いていた。

 渋谷のイメージフォーラムという映画館の前をたまたま通りがかり、あと30分ほどでちょうど上映開始時間になるというので「コペンハーゲンに山を」という60分ほどの映画を観ることにした。(2週間か3週間くらい前のことです)

 映画は、コペンハーゲンのゴミ焼却施設の老朽化に伴う建替えに際し、新しい焼却場のその屋上にスロープを作り、スキー場にするという実際に実施された計画の、コンペから工事を経て完成までを取材しているドキュメントだった。そのなかで焼却場の煙突から出る煙はもちろん最新技術でクリーンな水蒸気だけになっていて、その水蒸気を煙草でよく遊ぶようなドーナツ形状の煙の輪っかのように吐き出すという案があり、実際にそうやって丸い水蒸気煙を煙突から吐き出させる実験の映像もあった。この案は水蒸気を丸くするために使うエネルギーが馬鹿にならないという理由で最終的には採用されなかったようだが、なんだか青空に白い輪っかの煙がポワンという感じで浮かび上がり、風に乗り大きくなりながら移動し、移動しながら形が崩れ、薄れていく、ということが毎回ではなくても、例えば時報のたびに行われるだけでも面白いのになあ・・・面白いというか、いかにも(私が勝手に思い込んでいるだけかもしれないが)北欧っぽいウィットに富んだアイデアではないだろうか。

 上記の文は、この上の写真に街角の煙草屋が写っているのをあらためて見て、煙草つながりで書いてみました。

 父は総合病院勤めだった。ときどき仕事で悩み事があると、一人で夜の道、家の前の袋小路の未舗装の道に行って、そこでしゃがんで煙草を吸っていた。煙草の火だけがときどき光って、そのときだけ父の丸い背中の線が浮き出ていた。なんで窮屈そうにしゃがんでいたんだろう?そんなことの理由は全く不明だな。

 角の煙草屋というと昭和の街角のありふれた風景だ。でもこの写真はポストが効いていると思っています。