京都旅行 三日目


 兵庫県では台風の被害が拡大し、四国では交通網が麻痺。午前中、テレビニュースの雨雲の動きを見ていると、京都にも局地的大雨が来る可能性があるようだ。外を見ると、雨脚は弱まったり、急に強くなったりしているが、止む気配はまだない。林林さんからメールが届いて、嵐電の一日乗車券を使って、広隆寺の仏像を見たりしつつぶらつかないか?との提案。しかし、雨の中を歩くのが億劫になり、お誘いをお断りしてしまう。
 Tの部屋で、ビートルズの楽譜集をめくりながら、アンプにはつながないで、胡坐をかいてエレキギターをかかえ、TAB譜を参考にレット・イット・ビーのギターソロなんかをたどたどしくたどってみるが、全然うまく弾けない。あるいはベッドに寝転がってガルシア・マルケス著「百年の孤独」を読み始めてみたりも。
 再びテレビを付けて、のりピー覚せい剤事件の報道に、タレントやら解説員やらが鹿爪らしい顔をしてコメントを言うのを聞いたり。くだらないからすぐにチャンネルを回したり。少し頭痛がするから頭痛薬ナロンエースを口に放り込み、さて水がないぞと慌てたり。
 空腹になり、一乗寺駅近くのインキョカフェへランチを食べに行く。インキョというのは「隠居」なのか?主にギタープレイヤーによるジャズもしくはブルースが流れ、夜にはバーとなるウッディな作りの落ち着いた店だった。昼のランチは二種類あって、そのうち牛肉でごぼうを巻いて焼いた方を選ぶ。私のほかには女性の二人連れが来て、彼女たちは海老料理の方を頼んだようだ。インキョが「隠居」だとすると、隠居暮らしの小うるさい爺さん向けのカフェを想像してしまうのだが、だとするとちょっと名前の感じが合致していないと思うのだが。ではどういう意味の「インキョ」なのか?
 ジャズの雑誌がつまれている中に、山下洋輔相倉久人の対談記事が載っているのを見つけ、食事をしながら読む。ちょうど先日の山下洋輔トリオ結成40周年ライブの記念Tシャツを着ていたので、インキョならぬインネン?というかまあ偶然というか、を感じる。

 旅先でジャズ喫茶などに立ち寄ったときに、そこで聞いた曲がすごくよく思えて、ジャズ喫茶を出るとすぐに近くのHMVやらタワーやらにCDを探しに駆け込んだことが今までに何度かあって、例えば仙台のカウントで聞いたなんとかいうトロンボーン奏者のCDをそのあと仙台のHMVで買ったり、京都のラッシュライフで聞いたウェス・モンゴメリージミー・スミスのアルバムを京都のタワーで買ったりしたことがあった。しかし、どれも帰宅後に聞くとその店で聞いたときほどの感動は得られなくて、その理由はステレオ装置の差や、音量の差ということも当然あるだろうが、やはり旅行中にあるということによる気持ちの高揚、非日常にあるということが大きな理由だろう。
 小さいときに家に絵本があって、よく読んでいた、宮沢賢治の「どんぐりのやまねこ」ってどんな話だったかよく覚えていないが、何かを山猫に頼まれてその報酬に得た金貨が山から下りて家に帰ったら木の葉に変わっていたなんて場面があっただろうか?違う話かな?旅先のCDもそういうところがあるから注意が必要。
 しかし、そうは言ってもやっぱり大事なCDになる。旅先で買わなくても、その同じCDは都内のCDショップやあるいはネット通販で買えばもっと安く買える。がそんなことより、その旅行でその音楽に出会いその街のCDショップで買った、という一連の行動が極私的な旅行のエピソードであるので、買ったCDには「京都」という文字はないからお土産屋で売っているキーホルダーやら携帯ストラップやらとは違うけれど、あるいはむかしはお土産の定番だったペナントとは違うけど、旅先でCDや本を買うこともそれも含めて旅行の楽しみだと思う。
 とかなんとかぐちゃぐちゃと書いているけど、結局何が言いたいのか!と言えば、そのときインキョカフェで流れていたピアノ+ギター+サックスのライブ盤がすごく良くて、帰り際にマスター(?なのかな?シャイな感じの方)に聞いて、それがミシェル・ペトリチアーニとジム・ホールウェイン・ショーターの「パワー・オブ・スリー」というアルバムだと知り、この旅行のあいだにCDショップに行く機会があったら買おうと決めたのだった。

 午後二時過ぎくらいから雨が上がる。夜六時半ころに市役所前ちかく二条通りのブックカフェ「ビブリオティック・ハロー」で林林さんと待ち合わせる。彼は予定通り広隆寺を見てきたらしい。
 幽霊のはなし。昨日、円山応挙の幽霊画を見て、あるいは一昨日は六道珍皇寺高田渡のブラザー軒の歌詞を思い出し、そして今日、百年の孤独を読んでいたら幽霊のエピソードが出てきてそれが主人公の一族が新しい街を作るきっかけになっていた。ブックカフェのあと五十家という京野菜の居酒屋で林林さんと二人で飲みながら、林林さんから近くの「畜生塚」の話を聞く。ちょっと怪談めいている、夏。
 写真は五十家からの帰りに、鴨川の河原にて。長時間露出でぶれた人は幽霊めいて写る?