キクイムシの立てる深遠な音


 京都国立近代美術館で開催中の「存在のエシックス」展を見学。
http://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/2010/381.html
「生命、医療、環境、宇宙における芸術的アプローチなど、現代の先鋭的なテーマに挑戦する国内外の12のプロジェクトを紹介します」とのことだが、美術館で開催するということは「芸術的アプローチ」のところが前面に出ているのではないか?それが楽しみでもあるし不安でもある、というように感じながら。昨年(一昨年か?)国立新美術館で野村仁展を見たときにはとにかく面白くて、理科系脳が考え出す「理屈に基づく表現(というより自然の見方の提案)」の結果が、芸術と融合することが再確認できた感じだった。野村展は最終の展示形態が平面作品だったりビデオだったり三次元の彫刻的な作品だったり、所謂芸術的アウトプットに忠実だったのでその「融合」が理解し易かったと思う。
 存在のエシックス展は、上記の通りの口上な訳だが、芸術的アプローチなど実際には後ろに引っ込んでいるものが多かったように思った。それがまあ潔いというか、変なこだわりを捨てて科学館の企画展だと思えば納得できる。
 そんな中で、バイオミュージックのコーナーでは展示されている太い樹(切り株)に埋め込まれたマイクが拾う、樹の中で活動しているキクイムシの音をイヤホンで聞くことが出来る。その音が、深遠な音に感じて聞き入ってしまった。樹の中という先入があったかもしれないが、夜の森を一人で歩いている、その状況で自分が立てる歩行音や、周りの木々が風を受けてざわざわ鳴る音や、そしてはるか遠くの樹から聞こえてくるフクロウの声、そんな音が全て目を瞑った目の前の空間に展開しているように思えたのだった。
 尚、この展覧会は写真撮影自由とのことで、展示物を接写したりモニター画面を撮ったり、いろいろと撮影してみた。
 上は蜂のするどい嗅覚を病気の診断に用いる実験映像より。下は、セキュレティ・ブランケットの実験映像と、二軸回転ステージに立ったときに足元に投影された映像。




 寺町三条上がるのギャラリーヒルゲートの前を通ったら、大勢の客で混雑している。何だろうか?と入ってみると、中川貴文展〜BIRTH-はじまりのひかり-展という展示会だった。作家は21歳で早世したとのこと。一階に展示されていた日本画の「ヤブイヌ」と「夏風邪」の二枚に特に惹かれる。ヤブイヌの力強さ、ふてぶてしさ。森山大道の三沢の犬を思い出す。ふらりと入った画廊だったが、印象が強い。

 夕方より、ご近所Eさんご主人の単身赴任のためのマンションに遊びに行く。ごちそうさまでした。お世話になりました。