行き当たりばったりの沼津


 昼、雨上がり青空が見え始めたので、茅ヶ崎の河童徳利伝説の橋近くの屋敷林を撮影に行く。これはとある依頼の撮影。

 そのあと近くのラーメン屋で長崎ちゃんぽんプラス半チャーハンを食べる。いつも「少し痩せなければまずいな、摂取カロリーを減らしたいな」と思っているのに、それなのにメニューを前にするとこんな風に半チャーハンセットにしてしまっている。最近は夕飯をたくさん(と言っても一般的には普通の量、もしくは普通より少ない)食べると、翌朝にはなんか腸が張っているような胸焼けがしているような、そんなことが多いから情けない。それなのに、いざ食べるときには欲が出ている。

 JR相模線の香川駅まで歩き、さあ、もう家に帰ろうか?でもせっかく晴れてきたからもう少しどこかを歩こうか?鎌倉?藤沢?辻堂?どこもなんか行きたい!という強い気持ちになれないなあ・・・。
 香川の駅で、最初に来た電車に乗ってしまおう、下りだったら橋本まで行ってしまおう、と思った。来たのは橋本行きではなくて茅ヶ崎行きだったので茅ヶ崎へ。そこでまた、さあ、家に帰ろうか?どうしようか?と考えて、やはりどこかへ行ってみようと。青空だから。
 そこで東海道線のホームへ行き、今度も最初に来た電車に乗ってしまえと決めた。

 二十代のころには横浜の北の方に住んでいて、バイクで川崎の多摩川沿いの会社に通っていた。あるとき、会社に行くために寮を出たのに、右折しなければいけない国道246号線を、信号待ちのあいだに「突然の休暇取得」を決定して左折して、そしてそのまま富士五湖の方へ日帰りツーリングに行ってしまったことがあったなあ。でも、そのときの写真が残っているから、寮を出たときにはバッグにカメラを入れていたことになる。当時から毎日、会社に行くときにも、書類バッグの片隅にカメラを入れておいたのだろうか?ライツミノルタとかコンタックスTとかオリンパスXAとかを。そうだったかもしれないが、そうでなかったかもしれない。そうでなかったのなら、なんだ、寮を出る前から「今日は休みてえなあ」と思っていたのだろう。さて、休暇の理由に何をでっちあげたのだろうか?少なくとも親戚を殺したりはしなかったな。

 今日はそんな風な行動というより、なんかもっと疲れているのでした。どうしていいかわからないままフラフラとただ帰るのはもったいないと思っているまま、行き先を決められないのだった。

 十日ほど前、9月15日くらいかな、朝起きたら右目の、黒目より外側の白目部分が真っ赤になっていた。眼科に行ったら白目のほぼ表面を走っている毛細血管が硬化して切れ易くなったところに何かの拍子で切れたのだろうという見立て。消炎の点眼剤が出て、一週間ほどで赤目は白目に戻るだろうと言う。そして、その通りにだいたい赤いところは消失したのだが、ところが21日あたりに起きたら、いままでにない飛蚊症が起きていた。いつもそこに浮かぶ気泡やごみみたいなのが気になるだけでなく、ときどき黒っぽい影が視界を一瞬よぎったりもする。22日以降、その程度は減少してきたがまだ相変わらずその症状は残っている。来週にはまた眼科に行ってみよう。

 そういう不調が気分を左右しているのかもしれない。

 入って来たのが熱海行きだったので乗り込む。だいぶ前に買ったまままだ読んでいなかった伊佐山ひろ子の短編集を読む。面白い!最近の新進気鋭の若手作家の作品には、ずいぶん稚拙に思える文章が多くて、もしかしたら文学をやっている人たちからすると、それは当然日本語の使い方を習得した上で「故意」の稚拙なのだ、あるいは稚拙にみせかけた最新の文章形態なのだ、ということなのかもしれないが、読んでいてイヤだと思うこともある。それに対して(って、比較する必然性もないのだが)、伊佐山の文章は時代遅れなのかもしれないがキラキラと魅力的なサビを持つ昭和歌謡のようです。

 熱海まで着いたら、向かいのホームにもうじき浜松行きが入線すると言っているから、ぼんやりと並び、ぼんやりと座る。但し席取りにはシビアに参加してぎりぎりゲット。乗り込んでから、そうだ沼津にしようとやっと行き先を決めたのだった。

 小学生のころ、母の友人が沼津にお住まいだったことがあり、母に連れられて二度か三度か、沼津のその方の御宅に遊びに行ったことがあった。四十数年前のことですよ。
 そのときにか香貫山(沼津市にある山)のあたりの木にタマムシを見つけて捕まえたことがあった。子供のころには虫が大好きで「昆虫博士」になりたいと思っていた。タマムシを捕まえたときは有頂天になった。だから沼津と言えば、タマムシなのである。あとはクマゼミ。私が住んでいた平塚にはクマゼミなんてほとんどいなかったが沼津にはたくさんいて、遊びに行った御宅の私と同じくらいの年の子供が捕まえてあったクマゼミを見せてくれた。強烈に羨ましかった。
 だから沼津と言えばクマゼミでもある。

 沼津着は15時半くらいだったろうか、駅の観光案内で地図の載っている冊子をもらい、一応の目的地を千本松浜として歩いた。そして海を眺めてから、帰ってきました。