最後列の四人


 四日、木曜日。会社帰りに品川の映画館で日本映画マザーウォーターを見る。全部の作品を見たわけではないんだけど、この女流監督の、かもめ食堂からの作品(その前もあるのでしょうか?)ますます何も起こらない。どんどんとシンプルに向かい、表面の物語が凪いでいる。表面が凪いでいるってことは鑑賞する側が感じることの可能性は広く深く、でもちりぢりになるかもしれない。
チケット売り場でどのあたりの席がいいか?聞かれる(全席指定なので)。後方通路側を希望したら空いてるから真ん中でも大丈夫ですよとモギリ嬢(とは今は言いませんね)がおっしゃり、彼女のオススメどうり最後列のど真ん中にした。上映10分前にはいると、私しか観客がいない。もしや一人切りか?と思う。その後に結局計三人の方が来たのだが、まず私より間に二つあけて左に六十過ぎの黒いスーツを着た紳士が一人で。次にやはり二つ空けた今度は右に四十くらいのおばさんが一人で。最後におばさんの更に右に二つ空けておばさんよりややご年配の品の良さそうな御婦人がやはり一人。結局、四人の客は四人とも最後列に座ったのだった。やっぱりなんか奇妙だった。きっと後方希望者が来たときの席の決め方にだいたいのルールというか標準的な順番があるのだろう(と、妻が言ってる)、六人七人になると後から二列目も埋まって行き奇妙ではなくなる筈が、わずか四人の客で仕舞いだったからこうなったのだな。

 もたいまさこはそれぞれの映画の役どころをこなすんじゃなく、どんな映画でも、映画を渡り歩いて、いつもいつも変わらずにもたいまさこなのだった。これはこれですごい役者さんだな。