風の音


 線路のすぐわきにある家は、こうして電車の車内の明かりで照らされる。最近は、なかなか気に入る写真が撮れない。

 金曜。M氏の定年送別会のあと、夜遅い電車に乗って、帰宅するときに、先日借りてきて録音したキース・ジャレットチャーリー・ヘイデンの「ジャスミン」というアルバムを初めて聞いてみる。聞きながら、多和田葉子「ゴットハルト鉄道」を読んでいたのだが、途中から目がしょぼしょぼしてきたので、読書はやめる。寝不足。れんちゃんの飲み会。茅ヶ崎駅に0時過ぎに着く。タクシーは長蛇の列。家まで歩く。風が強い。風が強い日は久々のように思える。商店街の街灯のポールに取り付けられた宣伝の幟がはたはたと鳴っている。何かが転がって行く音がして、そちらを見るが、転がったものは見つけられない。音から、交通規制のコーンでも転がったかな、と見当をつける。寒いうえに風が強く、二日続けの飲み会でしかも寝不足であるのに、その夜の強風がもたらすいろんな音が好ましい。好ましくて、何の曲だったかは忘れてしまったが、何かの曲を、かすれた小さな音の口笛で吹いたりする。

 帰宅して少し空腹を感じ、何か食べるものがあるかと問うと、アンパンがあるというので、それを食べようと思って、自室に持って行ったが、着替えたりしているうちに忘れてしまい、寝てしまった。土曜日の朝に、起きると机の上にアンパンが置いてあったから、すでに起きていた妻とはんぶんづつ食べる。

 土曜の昼、家族の某を自家用車で駅まで送る。そのときに、HDDに録音してあったアルバムの中から、滅多に聞かないジミー&ウェスの、ロードソングがまだロードソングという名前になるまえの曲名で収録されているアルバムを選ぶ。すると、いつになく、このアルバムが素敵に聞こえる。二曲目のMAYBE SEPTEMBERという曲を二回続けて聴く。
 だから、午後に、パソコンで、とあるところに送る写真を選ぶ作業をしているあいだに、部屋のポータブルCDデッキ(でいいのか?カセットではなくCDのラジカセ相当)で、そのアルバムを流していた。CDをたくさんしまってある棚からそのCDを探し出すのに時間がかかる、部屋が暗かったせいもあるが、目がしょぼしょぼしていて背表紙のタイトルがなかなか読み取れないのだった。

 柏レイソルが優勝した試合をテレビで見ているうちに外は暗くなる。

 土曜の夜。テレビはどこもかしこもバラエティの二時間番組やらドラマやらで、見たいと思うものが見当たらない。私も家族のだれも、テレビを付けない。だから部屋が静かだ。風はまだ強くて、ぴゅうぴゅうと鳴っている。風の音は、少し不安をかきたてるようだけれど、でも、なかなかに「悪くない」。

 長い風邪はほぼ治ったとはいえ、まだ咳がときどき出る。

新たなる冒険(紙ジャケット仕様)

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