シンプル・シモン 横浜散歩


 どこかでもらってきた映画のちらし数枚を、暑い夜の寝る前に、ベッドに寝転がって眺めているうちに、横浜ジャック&ベッティで公開中のスウェーデン映画「シンプルシモン」というのを見に行こうかしら、と思っていた。こういう風に、どこかになにかを見に行こうなどと思うことはいくつもあって、ほとんどは忘れてしまって行かない。でも今日の午後は、少しだけ猛暑も収まり、特に予定もなし(今週はお盆休み中)、朝に家族のTとの会話で映画の話が出て、Tから最近見た映画の話をいくつか聞いたこともありこちらも映画を見に行きたいという思いが若干強くなり、うん、こう書いてみるとこの「朝に家族のTと映画の話をした」というのが後押しになっている要因として結構「効いて」いるのだろうな、そんなわけで、午後3時5分からの回に余裕を持って、2時半ころに映画館に行った。
 そうしたら私はそんなことは知らなかったのだが、今日の水曜日はレディースデイとかいう女性割引の日らしく、すでに大勢の、見たところ9割以上が女性の客が押しかけている。老女、熟女、少女。うん?老女の方というのが60もしくは50以上として、熟女が30〜50代として、少女が10代とすると、20代から30代の一般的な尺度で男性陣が一番、その魅力に吸い寄せられてしまう確率が高いと思われる年齢層の方々は、なんて言うのだろうか。20代前半と後半、およびそれ以上で、微妙だったりかなりだったり違うかもしれないのでひとくくりにするのは間違っている、等々、喧々諤々になりそうな(おやじの飲み会とかで)年齢層。(というわけでちょっと調べたら「妙齢」とか「年増」とか「女盛り」とか?)
 この映画館のベッティスクリーンは、HPによれば138席でこれが全席埋まり、両側の通路に折りたたみ椅子が出されて、そこも全部埋まった。
http://www.simon-movie.jp/
 映画は爽やかなラブコメディという宣伝文句そのもので、よく使われる単語で言えば、ハートフルとか言うような物語なのだった。途中、何か所か笑いが起きるのだが、女性比率9割越えなのに、笑い声の比率は5:5くらいになるのだった。しかも私は、ついさっきの会話が、いまの場面の笑いのネタとしてつながっている、といったような関係性をすでに忘れていて、その笑いに付いて行けないところがあって愕然としてしまう。字幕を読むのが面倒でちゃんと読んでない(物語が判る程度にナナメ読みしている)のがいけないのか。自分が十代や二十代のころにこういうラブコメ映画を見ているときに感じていたことはもっとずっと主人公に感情移入したり、自分の周りにもこういう美しくかつ優しい女性が現れないものかと妄想したりしていたのだろう、覚えてないけど。だから少女は少女マンガを読むのだろうし、青年は大志を抱くべきところなのにさまざまな妄想をするのだろうからね。かといって、ではこの年になってこういう映画を見て、くだらないとかアホくさ、とかは思わない(そう思うなら見に行かない)。その原動力はなになのか?もしかしてそういう若い頃の感情への懐古のようなことなのか?
 それにしてもスウェーデンの人たちは、日本でもずっと一定の指示を受け続けているあの「北欧」特有の色使いやデザインのなかに暮らしているのか。少なくとも映画に映る、家具、壁紙、バイク、等々の暮らしの道具は、そのように見える。
 ハリウッドの映画に多いのではないか(と勝手に思い込んでいるだけか)、ずーっと音楽が流れ続けてそれが感情操作につながっているように疑義を持ってしまう(なんだか果物の表面をワックスで磨いて商品を化けさせているテクニックのように思えて嫌になる)ような音の使い方(日本のテレビドラマも最近は多くがこんな感じ)、ではなくて、画面の中の色使いや暮らしの道具のデザインテイストが映画を見ているあいだずっと「北欧」であるという視覚入力が継続することが、(こちらは疑義を持たずに済む)感情操作に一役かっているのかもしれない。などと思った次第。