鉄道模型の走行音


 日曜日。十月になる。午後7時から藤沢のカフェ・パンセでカルメン・マキの詩の朗読と歌を聴く。二時間半。
 そのあとYさんと藤沢駅近くのビル5階にあるジオラ・バーという鉄道模型ジオラマのある店へ行く。日曜日も夜遅くになると、金曜日や土曜日と違ってひっそりとしています。秋のせいで余計身に染みる。店は、まぁ、バーですから暗い。マスターのいるカウンターの内側とカウンター席のあいだに何本かの線路や懐かしい昭和40年代くらいの街並みが作られている。そこを何本かの編成模型、電気機関車がたくさんのタンク車を引っ張る貨物や、特急電車や、二両編成のオレンジ色のキハが走って行く。
 店には鉄っちゃんが多い。たぶん私とYさんだけが鉄っちゃんでない客。
 Nゲージの鉄道模型が走っているときにシャーっていう小さな音がする。
 無音ではないけれど、さわひらきの家の中に飛行機が飛び交う無音のビデオ作品の静謐さを思い出す。走って行く車両のことはよく知らないから、その謂れや珍しさや鉄っちゃんの人たちがその模型を見て考えているようなことはまるでわからないが、わからないがゆえに別の面白さを感じているってことがあるだろうか。あるいは彼らもこのシャーっと言う控えめの音が唯一であって、あとはそこに街があって人がいて車があり飛行機も見えるのにすべて音がしない、というジオラマの違和感がもたらす静謐な空間が、とても居心地がいいと思った。