わすれなぐさ色の富士

 青富士という単語があるものなのか?と例によってちゃちゃっとスマホで調べたら、どうやらあるらしく、しかもよく使われていると書いてあるサイトもあった。6月17日に新幹線の車窓から撮った富士山はくすんだ水色とでも言うのだろうか。日本の色の名前はたくさんあるから、この色は××色です、なのだろう。でも××を知らない。と書いたところで、またもやちゃちゃっとをやってみたら、勿忘草色(わすれなぐさいろ)が近そうだった。梅雨草色はもう少し濃いようだ。画像アプリでこの富士山のところにスポイトマークを置いてクリックすれば、それが色座標上で何番の色かが判るのだろうが、これはそんな番号なんかより、ずっと「勿忘草(わすれなぐさ)色」の方が良いではないか。

 では勿忘草の名前の由来はなんだろう?とまたもやちゃちゃっとやってみると、wikiによれば「騎士ルドルフは、ドナウ川の岸辺に咲くこの花を、恋人ベルタのために摘もうと岸を降りたが、誤って川の流れに飲まれてしまう。ルドルフは最後の力を尽くして花を岸に投げ、„Vergiss-mein-nicht!“(僕を忘れないで)という言葉を残して死んだ。」とあった。そのあとベルタはルドルフのためにこの花を墓に手向けたとあった。その花を採ろうとしなければ、その花を自分に渡そうとしなければ、恋人は死なずに済んだという、そういう経緯の花を恋人の墓に手向けるものだろうか?とも思わずにいられないが、その花があまりに美しければそういう気持ちになるものだろうか。wikiにまとめられた文章では判らない伝承物語の詳細にはそこに納得できることがあるのかもしれない。

 例えば真冬の快晴の昼間に、雪を被った富士山が青空を背景に見えると、新幹線の車中から写真を撮る人も多く、なんとなくざわついた感じが起きたりもするが、この霞んだ微かな富士山には気が付いた人すらいないようだった。そういう真冬の富士山も美しいが、こういう淡く見える富士山は、ちょっと例えが変かもしれないけれど、ミュージシャンの大規模ドームツアーで大歓声の中、立ちっぱなしで手を叩いたりジャンプしたりして音楽を聴くのではなく、小さなライブハウスでアンプラグドで行われるシークレットライブのようだ。どっちも良いけれど親密なのは後者(すなわちこういう富士山)かもしれない。