子供自転車と言えども力強い

 ウィリアム・エグルストン写真集「ウィリアム・エグルストンズ・ガイド」の表紙および80ページ目のメンフィスの三輪車を下から見上げたような写真。赤いハンドルグリップ、錆びたハンドル緑のフレームとサドル、黒く太いタイヤ、白いタイヤフレーム。三輪車の向こうに見える平屋のいかにもアメリカな感じの住宅。メンフィスに暮らす平均的な家族の平凡さの象徴なのか、フラットな曇り空と相まって何も起きない憂鬱を感じるべきか、人がいないことから不気味な静寂を思うべきなのか、そんなことが写真から読み取るべき正解なのかもしれないが、そんなことより、乗り物が大好きな子供の気持ちのように、三輪車と言えどもかっこよく堂々として、出発を待っている雄々しさが見える。子供であっても、ここに来て、三輪車に跨って、いざ出発するときは、ここではないどこかに憧れるように。

 土曜日の午前、茅ケ崎駅に向かって歩いていると、ビルやマンションが建て込んだ駅近くの路地で、マンション駐輪場の駐輪レールに載せられている子供自転車の写真を撮った。APS-Cサイズセンサーの小型MLカメラは、外付けEVFを家に忘れてしまい、背面液晶は夏のまぶしい太陽の光でよく像が見えず、写った写真を見たら自転車の前籠がぎりぎりで上にフレームアウトしていた。しょうがない。三輪車と二輪車の差はあるけれど、エグルストンの写真が心の片隅に浮かんでいたと思う。

 建物と建物のあいだのフェンスや向こうの建物のチープな規格品の壁や・・・エグルストンの写真のように背景に空や空間が広くある場所とは全然違う狭い場所の子供自転車だ。まだ補助輪も付いている。でもタイヤはマウンテンバイクのようにごつごつして太い。この自転車もなんだかかっこいい。いまはこの駐輪レールに載せられているが、いつでもどこでも行こうと思えば進める力強さがある・・・と私はそう感じて自分じゃない(当たり前だ、私は人間で、これは自転車だ)のに誇らしくなる。自転車に感情移入している。

 下から見上げる視点で白い蒸気の中から黄色い武骨なタクシーが登場するのは映画「タクシー・ドライバー」の冒頭場面だった。どうやら乗り物を擬人化して見てしまう。性差があるかわかんないけど、男の子は乗り物を擬人化することが多いのではないかな。

 今日は短め、こんなところで・・・