深夜のジャズ

 よく行き来させていただいているUさんのブログに紫色の靭草のことが写真とともに書かれていた。それを見て、先日、茅ケ崎の砂浜に固まって咲いていた花がそれだろうか?と思った。写真を見直してからネットで調べてみたら、この花は靭草ではなくて、ハマゴウと言う植物だった。浜栲と書くそうで、木に考えるの栲、音読みはコウとかゴウ、訓読みは「たえ」「ぬるで」とウェブ辞書にはあったが、たえやぬるでが出て来る文章の例が記載されていない。布のことを栲(たえ)とも言うそうだ。

 ハマゴウは線香に利用されたことから浜香と呼ばれ、それが転じたとwikiに書いてあった。花期は7-9月で漢方薬に使われる、ともあった。花言葉は「愛の喜び」だそうです。

 

 夏の夜、夕食のときに飲んだ無濾過の微発泡の濁り酒にすっかり酔ってしまい、部屋の蛍光灯も付けたままに眠ってしまう。3時間ほど経って寝苦しくなって目が覚め、ペットボトルの緑茶を飲んでから、さてどうしたものかと思う。汗でべたついて熱を内包してしまった身体を洗い流し、歯も磨こう。そうしてまた眠ろう、そう思いその通り行動するが、シャワーを浴びて歯を磨いたころには目がすっかり覚めてしまった。寝ていたときに煌々と付けていた蛍光灯を消して、読書灯とLEDランタンの間接照明だけにして、冷房装置をオフにすると窓を開ける。夜風はもう涼しくて、カーテンをふくらませると一気に部屋の淀みを流し去ってくれる。CDが立てかけて並べてある場所から、指が決めた一枚を取り出した。部屋が暗いからいちいちアルバム名や演奏者を選び出せない。取り出してから見ると、ジャズトロンボーン奏者のConrad HerwigとピアノのAndy LaVerneが2000年に録音し2002年に発売されたShades of Lightだった。発売された年だったかその数年あとか、仙台に旅行してジャズ喫茶カウントに行ってみた。ジャズ喫茶に入ったときにたまたまかかっていたアルバムは、その場の雰囲気やオーディオ装置の質や音量の大きさや、なにより自分が旅先の非日常にいて、このジャズ喫茶に来たという気分の高揚もあって、まるで一期一会な感じで、たいていすごく「いい」。いままで知らなかった素晴らしいアルバムに出会えた気がするものだ。そのときに掛かっていたアルバムがコンラッド・ハーヴィッグのリーダー作だったのか、なんというアルバムだったのか、実はもう覚えていないのだが、アルバムジャケットを見せてもらったのかな・・・そのトロンボーン奏者の名前だけを憶えて、コーヒーを飲んでもう一枚か二枚、アルバムの片面を聴いてから、店を出ると、いまもあるのかな・・・ジャズ喫茶近くにあったタワーレコードだったかHMVか、大きなレコード店のジャズ売り場へ駆け込んだ。ジャズ喫茶で回っていたのは複数の管楽器の編成のバンドで疾走感溢れる感じだったと思う。だけど記憶してきたジャケットデザインのアルバムは見つからなかった。というかこのトロンボーン奏者のCDは上記のピアノとのデュオの一作しか置いてなかった。そこで、そのアルバムを買ったのだ。デュオアルバムだから、ジャズ喫茶カウントで聴いた疾走感の溢れるような演奏ではなかった。インタープレイトロンボーンとピアノのやりとりが続く。トロンボーンのマイルドな音のつらなりは暖かく、ほっとする感じもある。一方でトロンボーンの音は動いている動物の出している音みたいだ。ピアノは楽器が出している音だが、トロンボーンはそれより原初的な感じ。なんの根拠もないが、なんだか楽器界の生きた化石のようだ。

 このデュオアルバムは、買う動機となった疾走感とは別物だったから、最初は「なんだかなぁ・・・」という思いだった。だけど、それから二十年のあいだ、たまに聴く。今日は指が選んで、久しぶりに聴いた。夏の夜にひっそりと起きているときに小さな音で、ほらいまこうして、流している。わるくない。