街の上で

 7月新刊、双葉文庫藤野千夜著「団地のふたり」を読みました。文庫に巻かれた帯に、2024年9月よりNHKBSにて、キョンキョン小林聡美が「ふたり」を演じるドラマが放送されると書いてあります。すなわち、放送予定ドラマの原作小説。最近この作家の「じい散歩」が評判と聞きますが、読んでないです。当事者すぎるタイトルで、なんだか避けています。それで、代わりにってことでもないですが「団地のふたり」を買い、読了しました。

 小説のいちばん最後の方に「団地のふたり」が映画を観るところが書かれていて、その観ている映画が下北沢を舞台とした古着屋に勤める青年を主人公に置いた青春群像、と書くといかにも言い方が古いですが(笑)、そういう映画の「街の上で」でした。私は「街の上で」は気になっていたけれど結局まだ観ていませんでしたが、小説のその場面に後押しされるように、アマプラ(有料で500円した)で、今夜、この映画を観たのです。

 もう30年くらい前に撮られた故・市川準監督の「ざわざわ下北沢」も、街である下北沢が主人公で、そこで生きる若者たちが主人公の街を助けて演じていましたが、この「街の上で」もその系譜を継いでいる。なにも起きないけれど、俯瞰して見るとこういう風に、ありきたりであたりまえで何も起きない時間に生きている若者たちが、個々まで近づいて見れば、自分だけの人生を波乱万丈に苦しみながら、あるいは喜びながら生きている、その総体をうまく描いていると思いました。

 「ざわざわ下北沢」がラスト少し前でちょっとしたばたばたが起きて、予想外の出来事も起きて、ひとつの映画的波を作ってあるのに対して、「街の上で」の方はそういう波も少ない、けれどいつのまにかなんというかまぁみんな幸せに戻っている、そのベクトルが良かったですね。

 恋人どおしだと話せないことがあり緊張感があり、それがストレスになり息苦しいが、友だちであればなんでも話せてしまい、ずっと心地よい、という価値観は、昔もなくはなかったが、それを表に出して肯定していくところが今の時代なのかもしれないですね。そういう友だち関係が、同性間だけではなく異性間にも普通に生じているところが、昭和の頃と、令和の今の、あいだに変革期の平成を挟んで、違うところかもしれません。

 昭和の頃に女性が男性を一人暮らしの家に上げたら、そこには含意があって、もうそういうことですよね?っていう暗黙の了解があったけれど、いまはそういうのないから。昭和のおじさんたち、勘違いしないように(笑)

 PS「ざわざわ下北沢」は監督の市川準氏もすでに故人となり、映画に登場していた原田芳雄樹木希林、りりぃ、フジコ・ヘミング、各氏もすでに鬼籍に入られました。先日亡くなったまだまだ若かった中村靖日さんも出演していました。