海棠の花


 今日は家族の某(って結局は奥さんなんですけどね)と鎌倉へ。子供のころ家にあった鎌倉の花を紹介するような写真が豊富な観光本で、長谷の光則寺の海棠が紹介されていて、そこにはたしか「桜のあと、4月下旬に満開になる」と書いてあったと思う。それが頭の中にインプットされているのだが、何年かにいちど、海棠の花を見に行こうと思い立って鎌倉へ、その本に書いてあった通りに四月下旬に行ってみると、いつも海棠の花は既に終わっているのだった。そこで、今日は「4月下旬」を信じないことにして「桜のあと」ということから見当を付けて、光則寺ではなく(確か)そのむかし中原中也も見に行ったという妙本寺に行ってみたのだが、それでも既に若干遅く、海棠は一番の見ごろを過ぎていた。が、でも、十分にきれいだった。妙本寺は観光客もまばらで、海棠のほかにも八重桜が満開。シャガの花も美しかった。さらにはあちらこちらから鶯の鳴き声が聞こえる。鶯の声は谷戸に囲まれて反響するのか余韻を残す。
 そのあと、鎌倉農協即売所に寄る。いま並んでいたのはブロッコリー、大根、菜の花、など。この写真に写っているのはグリーンマスタードというらしい。ここで写真を撮ると、いつもぶれてしまう。買わないのに写真を撮る罪悪感が働くからあせっていて失敗する。今日も何枚か撮ったのにかろうじてなんとかぶれていない(それでも拡大するとぶれている)のは上の一枚だけだった。何かを買えば、買うときに写真を撮って良いかと確認して、じっくり撮れるのだが。そうするときもあるのだが。
 私が小学生のころ、もういまは亡くなってしまった私の父あてに、仕事柄、製薬メーカーから宣伝をかねた絵葉書シリーズが送られてくることがよくあった。いまもそういう広告宣伝をしている会社はあるのかな、例えば「日本の城」シリーズとかだとすると、ひと月に一枚、絵葉書が届く。その絵葉書の片隅にはその会社の商品が載っている。そういうシリーズ絵葉書を父からもらって集めていた。そういう中にヨーロッパの街並みシリーズみたいな企画があって、そのシリーズの一枚にパリだったかな、いやイタリアのどこかの町だったかな、街角の八百屋の店先が写っている絵葉書があった。さんさんと日を浴びていろいろな野菜がとてもカラフルに写っている。少年の私はすっかりその美しさに魅せられていた。その写真のことが記憶の奥底にあるのだと思うが、どうも八百屋を見ると台に並べられた色とりどりの野菜に目が行くし、撮りたくなるのだ。ずーっと、いつでも。
 御成通りのcafe&bar univibeで昼食。ジャクソン・ブラウンが流れている。バジルとトマトのパスタを食べる。某はアボガドと鳥のホットサンド。はじめて入った店だが、落ち着いてゆっくり出来る。古めかしいステレオ装置が置かれていて、そばにLPレコードが山積みになっていた。私と某が食事が終わり話しているときに入って来た背の高い外国の男性と日本女性のカップル、男性がふとLPレコードを手にして、日本語で「なつかしい」と呟くのが聞こえてきた。
 トイレに立ったついでに、男性がそう呟いたレコードが何だったのかを確認してみたらストーンズの、スタート・ミー・アップが入っている、ええとブラック&ブルーだっけか、そのLPだった。さらにその一枚下を見たら、ウェザー・リポートのなんとか言うアルバムだった。ジャケットだけは覚えていた。


海棠の花の接写