旅の疲れ


 結局、今朝も小雨が続く。
 朝、ホテルをチェックアウトしたのち、鹿児島中央駅で知覧行きのバスを待つときに読みかけの文庫本「雪」中谷宇吉郎著がないことに気付く。どうやらホテルの部屋に忘れてきたらしい。あと数ページだったのに大変におしい。もう一冊持っていた永井するみ著「グラデーション」を読み始めると、ライトノベル(というのかな?ライトノベルの定義はよく判らないのだけれど)はするすると読める。
 結局、「雪」は午後にホテルまで受け取りに行きました。

 知覧は思いのほか高いところにあるらしくてバスは全行程の後半にはぐんぐんと山を登る。すると、たちまち霧に包まれる(上の写真)。村田喜代子著「耳納山交歓」の舞台になる別荘地はこんな山の先にあるのではないか、と思う。
 知覧の武家屋敷群にある七つ(だったかな?)の武家屋敷の庭を見て回る。

 午後、バスで鹿児島市内の繁華街「天文館」まで戻る。バスの中で盛んに鰻屋の宣伝放送が流れる。椋鳩十先生が絶賛した鰻屋「すえよし」は天文館にあります、みたいな放送。それで特に決めてもなかったので携帯からウェブにアクセスしてその店の場所を把握して、昼食を食べに行ってみる。次から次へ、買い物のついでに昼食を食べに入ってくるらしいおばちゃん達。地元に溶け込んでいるという感じでした。

 そしてあとは今晩、鹿児島空港発の帰りの飛行機までのあいだ、特に予定もなし。鰻店から外に出ると、雨はやっと上がり、桜島もてっぺんまで、ぼんやりとしたシルエットみたいではあるが姿を現している。適当に歩いて行くと鹿児島県の博物館があったので入ってみる。ウシウマといういまは絶滅した馬の写真と骨格標本を見る。写真を写真に撮る。骨格標本も撮る。屋久島に関する展示をぐるっと回ってみる。館内には遠足の小学生が走り回っている。早々に退館。
 また歩いて行くと、今度は鹿児島文学館に行き当たる。鰻店が好きだったらしき椋鳩十をはじめ、島尾敏雄梅崎春生などなどの鹿児島にゆかりのある作家がそれぞれコーナーが設けられて解説されている。興味深くひとつひとつの展示を見入って、あるいはビデオなども見ていたら結構すぐに時間が経ってしまう。

 それで市電に乗って、ホテル近くの高見橋で降りて忘れた文庫本を受け取り、鹿児島中央駅でコインロッカーから荷物を出し、空港行きのリムジンバスに乗って、空港に行く。空港では予約済みの一本前の羽田行きが登場受付締め切りぎりぎりだったのでカウンターに駆け込んで振替えてもらい、大慌てで荷物検査を通り搭乗。
 なんだかな、旅の疲れもあってなのか、最後の鹿児島は行く当てもないような時間をつぶすためにうろうろと浮遊しているような気分であった。


ウシウマの写真。終戦後に西表島にいた一頭を最後に絶滅したそうです。