聴覚と視覚


 7時半目が覚める。7時を過ぎるまで目が覚めないことなど最近はほとんどないから寝坊である。それも近所のスナックの飼い犬が、部屋に入りたいという意思表示かなにかなのか、きゃんきゃんとずっと吠え続けて、その声で目が覚めたから、犬が吠えなければもっと寝ていたかもしれない。

 8時、選挙の投票に行く。そのあと、自転車に乗って、近所を一回り。上の田んぼと鉄塔と工事中の新しい高速道路の写真などを撮影。休耕田というのかな、空き地にカンナや、名前を知らない黄色い花や、そういう花々が咲き乱れていて、その横を犬を連れて散歩のお尻の大きなおばさんが歩いて行き、そのおばさんをおめかしして高いヒールを履いた若い女性が猛スピードの自転車で追い越して行く。下着のシャツ一枚のおじいさん二人が立ち話をしていて、彼らの会話から「そんじゃあ、だめじゃんかよー」というところだけが聞こえる。

 昼、藤沢の「はま吉」へ。鰻を焼く匂いに誘われて、列に並んででも鰻重を食べることを決心。私のすぐ後ろに並んだ60歳くらいとおぼしきおじさん二人、盛んにゴルフの話をしている。外で15分、店内で10分くらい待ってカウンターに座り、鰻重を注文。
 意識的によく噛んで、味わって、ゆっくりと食べたつもりだが、ほぼ同時に鰻重を食べ始めた右隣のおじさんや、左隣の例の二人組みよりずっと早く食べ終わってしまう。

 鰻重が出てくるまでのあいだ、どこかの古本屋で100円で買った福永武彦著「廃市・飛ぶ男」に収録されている「未来都市」を読み進む。未来都市の音楽や絵画が、過去の作品のいいとこどり的コラージュ(手法のコラージュ)であるという設定は感心させられるというか、今既にそういう傾向が実際にあるようなので驚いてしまった。

 鰻を食べ終わって外に出ると、小雨。傘をさして、昨日に引き続き、本鵠沼の梅庵まで、余白やの午後@梅庵に今日も足を運ぶ。

 大盛況。入って右側の洋室のみ空いていたので、そこに座ってオリオンの壜ビールを頼み、梅庵のMさんに私の写真のブックを見てもらう。写真を誰かに見てもらってその感想を聞かせてもらうのはホントに嬉しいことです。じっくりと見ていただいてありがとうございます。

 同じ洋室に老夫婦がいらっしゃる。ご主人は音響学が専門の大学の先生だとのこと。二対のスピーカーで作る昔ながらの音場に対して、マルチスピーカーのシステムは専門的にみてどういうものなのか?とか、CDとアナログレコードの差は?とか、素人がいきせききっていろいろと質問してしまうが、楽しそうににこにこといろいろとお教えいただく。聴覚はつきつめると実はデジタル的な感覚器であって、それに対して色判別に関する視覚はもっともアナログに近いのではないか、とか。スピーカーというのはもともと大企業が量産するようなものではなく、もっと感覚的なことを含む作り手の意志のあるべき製品なのだ、とか。等々、こんな風に要約して書いてしまうと、本当のことを伝えていないのだろうけれど、実に楽しいお話で、ありがとうございました。

 秋谷の写真家H田さんにもお会いできた。このブログをときどき見て下さっているらしい若い方ともお話できた。余白やさんを中心に様々な出会いがあって、いいですね。

 雨音のなかにひっそりと流れる、余白や主人セレクトのジャズもいい。スピーカーの前で聞くことより、雨音混じりにかすかに、誰かの話し声なども交えながら、隣室に聞こえてくるくぐもったデイブ・ホランドとかが、素晴らしく聞こえる。

 写真を見て、その写真には撮影者の個人的な背景(その写真を撮るに至ったすべての背景!)があって、少なからずどんな写真も、それゆえ私写真である。そして、その写真を見る鑑賞者が、写真をきっかけに何か刺激を受けて、忘れていた過去のことや何かの漠然とした感覚が呼び覚まされる。以上が写真の力である、なんてかっこのよいことをしょっちゅう書いていてお恥ずかしい次第だが、でもまたぞろそんなことをベースに考えてみると、雨音や話し声やに混じって聴く音楽っていうのは、その瞬間瞬間に過ぎ行く時間の周辺ノイズが締める個人的状況の割合が多い聴き方ということであって、そういう音を排除して純粋に作曲家とか演奏家に向き合うことと態度は違うけれど、音楽の「聴き方」として、その聴いた結果が上記の写真同様に、聴衆個人のプライベートな領域に作用することが結果なのだとすれば、決して雑音のない聴き方に対して劣る聴き方とは言えない、とか思ったりする。

 藤沢駅の改札を出る手前に、輪菓子「禅ドーナツ」の店が20日だか21日だかまでの限定で出ている。楽天ランキングドーナツ部門1位だとか、油で揚げていないとか。このドーナツ、ホントに美味いかな?と思いつつ買ってみて、余白やさんに持ち込み食べてみたら確かに美味しい。そこで帰路に家への土産にまたぞろ買って帰る。http://www.zen-tokyo.jp/

 茅ヶ崎駅で携帯メールで頼まれたトマトを買って帰る。 

Dream of the Elders

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