BRANDINにて


千葉からyamachan1972さんが茅ヶ崎までやってきました。夜七時半に改札で待ち合わせ、加納食堂で夕食を食べてから、南口からタクシーに乗って、BRANDINに行ってみました。yamachan1972さんの「行ってみたい!」リクエストがあり、私も初めて行くことになりました。いままで何度か、店の前を通ったことがありましたが、定休日やイベントの日にぶつかって入れなかったり、店内に大勢のお客さんが楽しそうに談笑しているのが見えたからかえって気後れして入れなかったりで、そこによく知られた主にアメリカの60年代から70年代のレコードを掛けている店があることはずーっと前から知っていたのですが、今日が初めての入店になりました。金曜は20-23時が営業です。20時半ころに着きました。タクシーは桜道の旧道を走り、美住町の交差点を越えたところで停まります。空には満月が出ています。雲一つない澄んだ空に浮かんでいます。店のドアを開けると、ハービー・ハンコックの処女航海のジャケットが飾ってありました。晩夏にぴったりです。古い本棚には雑然とたくさんの音楽関係の本が置かれていて、そこを回り込んで、窓際の席に座りました。60年代くらいのものらしいラジオなどが棚の上に無造作な感じで飾られています。緊張してしまうようなきちんとしたところは全くない、かといって散らかっている感じでもない、子供のころにあこがれた自分の部屋(本当は部屋というよりガレージが欲しかったりして)は、かくあるべき、音楽や本やバイクや道具に囲まれたスペースに、煌々とではなくていくつか欲しいところだけ裸電球が照らしていて、といった感じの空間でした。ちょうどビートルズのレボルバーが終わったところで、処女航海に迎えられてレボルバーが流れる、では、アメリカンロックではないね、と思っていたら、そこから店を出るまでのあいだに、ザ・バンドのステージ・フライトにはじまり、エリック・カズ、初期のフリートウッド・マックなどが掛かりました。途中、yamachan1972さんのリクエストで、教えてもらったけれどもう忘れてしまった女性ボーカルが掛かり、私もむかしよく聴いたスティーヴ・グッドマンを掛けてもらいました。
 ジャズ喫茶でも同様のことを思うのですが、壁全面にぎっしりと詰まっているLPレコード、引き出すともう40年も前の歌手が笑ったりかっこつけたりしていて、ファウンドフォトのように時間の蓄積が彼らの笑顔をくるんで、今ではないがゆえに何事も幸せだったといった雰囲気を醸成しています。ひとつひとつのLPレコードに気持ちがあると仮定すると、引き出されてジャケットを見てもらおうと思っていたり、もういいよじっと寝てるから放っておいてくれと思っていたりするだろうか。ましてやそれがターンテーブルに載せられて針が溝をたどって、数十年のあいだに付着したスクラッチノイズに記憶をたどり、新しい傷を否応なく増やすのは、嬉しいことなのか、億劫なのか。そう考えるとこの場所は音楽の幽霊が、心地よく「出てこれる」異界かもしれないな、なんてセンチなことを考えました。CDに比べると、割れていたり、針が飛んだり、スクラッチノイズがはさまったりする音楽は、それでもそれなりに大きな音量で聴いていると、どうしてこんなに暖かくて優しいのか。音そのものもファウンドフォトを見たように聴こえるのです。
 帰り道、あれだけ住んでいた空に薄い雲がかかっていて満月は朧月になっていました。
 気が付くと、今晩はもう暑くないのです。8/31の朧月と愛すべき幽霊化した音楽によって、そこは既に秋の世界のようでした。

クレイグ・フラー/エリック・カズ(紙ジャケット仕様)

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