夜のグラウンド


 阿部昭著「単純な生活」読了する。講談社文芸文庫の213ページから
『われわれは誰しもみな、なつかしい子供時代のふるさとの景色を、歳月とともに消えてしまった過去の風景を、記憶の中に畳み込んでいるが、もちろんそれはその人の記憶の中にしか存在しない映像で、その人がそれを文章にしようがしまいが、結局は小説の中の描写みたいなものでしかないのだ、と。眼前の景色と、回想の景色と、そのいずれが実像でいずれが虚像であるかは、まさにその人の心のおもむくまま、人生のあるがままである』
 眼前の景色でありながらも虚像でしかない、というところは、最初はえっ?どういうこと?と思ったが、冷静に考えるとなるほどそういうことだよな、と腑に落ちた。

 北関東U市。夜、自転車に乗って行ったことがない路地へ、気の向くままに迷い込んでいく。そのうちに大学の校庭を囲むブロック塀に当たり、ずっと塀沿いに進むうちに小さな入口(正門じゃないってことですね)があったから校内に入る。明るく照明されたグラウンドにはアメフト部や女子サッカー部や陸上部の連中がいて、練習に励んでいる。よく見るとおじさんが三脚を立てて新緑のユリの木の花を撮っていたり、おばさんたち四人組が陸上部に追い越されながらトラックをウォーキングしていたり、一般市民の方もグランドを利用しているようだった。昼も夜も気持ちがよい季節ですね。