このごろのこと


 片岡義男著「音楽を聴く」、鶴見俊輔「旅と移動」、読了。

 TOKYO ART BOOK FAIR2013で購入した和田亜矢子著「ホシノの星」「ぽるとぽこ」。短い小説のzine。面白かった。ぽるとぽこは沢蟹とザリガニが出てくる川の中を舞台とした話で、こう書くと、童話かファンタジーかそういう話のように思うだろうが、なんだかものすごくシャイな人が、人を主人公にして書くこと自体が恥ずかしくて、沢蟹とザリガニの川の中のお話に仕立ててしまったという感じ。これを澤さんというおじさんと、近くに住むもうちょっとグローバルな考え方を持っているお金持ちのザックさんに置き換え、日常の中のある日に、二人が近所の病院に行ってよもやま話をするとか、実は澤さんの御嬢さんは出戻りでいまは新し資格を取るために専門学校に行っている、なんていう設定を淡々と描いている、ととらえるとこれはのほほんとした春の陽射しに包まれているような私小説を読んでいるのとまったく同じような感覚になれるのだった。熊が出たり蛸(もなにかに出ていたかな?)が出たりする川上弘美の短編などは、そうはいっても熊や蛸はちょっと人間とは別の常識を持ったもののようで、そこには奇妙な怖さが漂うのだが、それとは全く違って、なんだろうか、たとえば小山清とか上林暁の小説を読んだような感想を覚えるのだった。
 ホシノの星でもいろいろとありえないことが起きている。それこそ蛸の夫婦が夫婦円満の理想形のように出てきたりする。そういう中で人間の恋愛が結婚に至るような過程が描かれている。こちらの小説は途中途中で出てくるエピソードが実に面白いのだった。例えば雨上がりの水たまりに、そこを歩く女の子のスカートの中が反射して見えるのではないか、と期待してしまう気持ちが出てくるのだが、私が19歳のころに通っていた大学の、最寄駅から校舎まで歩く間の道にたくさん水たまりがあって、まさにそういうことを期待して歩いたことがあったのを妙にはっきりと覚えているのだった。ほかにも年配のお母さんがあの世から電話をかけてきて、餅の作り方を指南するのだが、その際に、あんこ餅のあんの味は時代とともに変わってもよい、と告げるところは斬新な感じがした。

 先週の日曜美術館石田徹也特集のなかで使われていたバックナンバーという日本の若いバンドの曲がいい感じがしたので、アマゾンで中古三百円だかで、番組で流れた曲の入っているミニアルバムを購入した。先日、会社から帰ったら届いていたが、結局まだ聞いていない。

 涙もろい。あまちゃんのあとにはじまった朝の連続テレビ小説を土曜日に初めて見た。正確には、朝起きてテレビをつけておいたら始まった。そのなかでイチゴをおばあちゃんに食べさせたい少女が一生懸命になってイチゴを手に入れるが帰り道に転んでつぶしてしまいなくしてしまうという場面があった。その少女とどういう関係なのかな、兄なのかな、男の子がその様子を見ていてどこかからイチゴを手に入れてくる。という前後のつながりもなにも判らないのに、ただその数分のあいだのエピソードだけでなんだか目が潤んでしまっている自分がいて、それで自分ですっかりあきれている。

 土曜日10/5、ジョアンナ・シムカスが主演している「若草の萌えるころ」という1968年のフランス映画をDVDで見る。先日、2003年ころのなんとかいう雑誌を読んでいたら、村上春樹が映画に関して誰かと対談をしていて、こんな記事があったっけかなー当時は読んでないなー、と思いながら読んでみたら、この映画が好きだと発言していた。読んでいると、主演がジョアンナ・シムカスであること、物語が一人の若い女性の一晩の大きな出来事が起きるわけでもない話という。それでちょっと見たくなってこれまたアマゾンで1300円くらいのを見つけて購入したのだ。
 映画「冒険者たち」のレティシアを演じたシムカスは、自分にとって特別な存在。十代後半に名古屋の名画座の三本立てとか二本立ての映画のなかに組み込まれていた「冒険者たち」を複数回見た。テレビでも見た。VHSのビデオも持っていて何度か見て、LDでも買って、DVDでも買った。メディア変遷のたびに買い続けて、そのたびに見てきた。最初は、すなわち十代後半に「冒険者たち」を見てしまったということです。もうすっかりとりこです。レティシアにも物語にも。
 いや、いまの若い人には、あのころの結局は夢破れるような映画、イージーライダーしかり俺たちに明日はないしかり、日本映画でもATG系の多くの映画がそういう結末だったような、そういう結末なのに、それなのに共感したりカッコいいと思ったりした感覚は理解できないのではないか。いや、なに、私自身だって今となっては、あのころどうしてあんなにも共感したのかわからなかったり、カッコいい「どころではない」と思うことがあるのだが。
 まあとにかく、そんなわけで私にとってのジョアンナ・シムカスはイコール冒険者たちのレティシアであるから「若草の萌えるころ」のシムカスを見ていても、頭の中ではずっとレティシアのテーマが流れていて「初めての」映画を見た、というよりも「レティシアの演じている別の」映画も見た、という感じが最後までずっと離れなかった。
 弦楽器奏者が早朝のハイウェイで演奏する場面はいやにセンチメンタルだったが好きだった。

若草の萌えるころ HDニューマスター版 [DVD]

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冒険者たち [DVD]

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 一番上の写真は一年くらいまえの葉山の海岸です。