浦賀 横須賀 横浜

初めて浦賀の町に行ってみた。たまたま本屋で手にした雑誌散歩の達人のムック本の三浦半島特集に浦賀の紹介ページが載っていて、行ったことがないなあ、と言うのも手伝った結果だった。
なんだかなぁ、浦賀の町の良し悪しって訳ではなくてこちらの体調と言うより「気調」なんて単語はないだろうが、即ち気持ちの持ちようがあまりビシッとしてなかった。いつものように変わり映えのしない町の構成要素の中にある、私が、と言うより私が感化された先立つ写真から大いに影響を受けたに過ぎない私の視線が捉えて、これは撮るべしと判断されるところを、写真に抑えて行く(前にも書いたけど私的には、抑えると言うより犬が電信柱にかける小便のごときマーキングのようなことなのだ)。が、その行為には今日の浦賀行きと過日のどこかとのあいだに判断の差なんかないと思うのだ。今さら劇的に自分の価値基準を変えるようなバイタリティーもないし、差がないのに、それにもかかわらず、日によって(写真を極個人的に評価すると、)良く撮れた日とダメな日が現れる。そのどちらかと言えばダメな日に浦賀を散歩してました。いや、そうではなくて、浦賀を散歩した日の写真は総じてダメだった、と、そう言うことだ。
浦賀には叶神社と言うのが湾を挟んで西と東にある。浦賀ドックを過ぎてから、湾の西側を行く。一番海沿いの道と平行に一本裏の道はポツポツと店のある一応は商店街で、その途中に西の方の叶神社があった。彫り物が、あのなんて言うのか無知でわからないが、神社のお詣りする辺りの上を見上げると龍や象が彫ってある、それがなかなかに凝っている。いや、それがなかなかに凝っていますよ、と本に書いてあったから、見上げてみて、なるほど凝っているな、などと思ったりしたのだ。
海沿いの道に戻ったら、湾を東へと渡る渡し船乗り場かあった。ちょうど向こうからこっちへ船がやって来る。先客は70歳くらいの老夫婦。彼等に続いて、着いた船に乗る。200円だったか。ものの1分か2分の感覚で、実際にはもしかしたら3分だったのかもしれないものの、とにかくすぐに向こう側に着いた。
叶神社の東の方は、その裏山に、勝海舟が渡米前に水垢離と断食修行をした史跡がある。そう案内板にあったので200段弱と思われる階段を登ってみた。てっぺんからは木々のあいだに東京湾が見えた。向こう側に房総も見えた。
階段は降りるときにも足を滑らせたり踏み外したりしないよう慎重に降りた。たかだか200段弱なのに降りてほっとして気が付くと太股の筋肉がヒクヒクしている。
最初に、なんだか気分が乗らない日だったと書いた。そう言えば浦賀には、茅ヶ崎から東海道線で戸塚へ、戸塚から横浜市営地下鉄で上大岡へ、上大岡から京急線浦賀へ、と言う経路で行ったのだが、戸塚駅でちょっとした間違いをしたのが尾を引いたのかもしれない。と言うのは、戸塚駅には東海道線のホームに降りると地下の改札に降りる階段と二階の改札に上がる階段があるのだが、横浜市営地下鉄に乗り換えるには地下改札に行かねばならない。ところが私は間違って2階へ行ってしまったのだ。東海道線の乗っていた電車がホームに着いて、降りたら目の前にエレベーターがドアを開けて、まるで私を待っているかのようにあったから、ラッキーとばかりひょいと乗った。乗ったら一階と二階のボタンがあった。そうか、ホームは二階ってことになっていて地下ホームはここでは一階となるのか、などと言う都合の良い解釈をしてしまった。この時点で二階にも改札があることを完全に失念している。いや失念と言う単語の意味のニュアンスが良くわからないが、自分のこれからの予定に関係のない二階改札のことなど、単純に「失念していた」とか「忘れていた」と言うよりも、なんか自分勝手に無意識なんだけどそれって即ちある意味意識的に排除して、選択や考慮に掛けなかったって言う感じなのだ。これがなんだか加齢に伴う思い込み、加齢に伴う偏屈、加齢に伴う狭視野、って感じが痛感されてショックだったのだ。しかも一階のボタンを押してもここが一階だからボタンは点灯しないのに、それでもまだここがエレベーターボタンでは二階に当たると言う間違った思い込みが溶けず、あれえ?と思ってるうちに乗り込んできた人が二階ボタンを押して、当然そのボタンは点灯してドアが締まり、エレベーターは登り始めた。そこに至って初めてこの思い込みによる間違いに気が付いて愕然としたのだった。
人の顔が頭には浮かんでいるのに名前が出てこない、と言う症状も頻発するし。だけどこの症状を分析するに何度も「顔だけ浮かんでは名前が出ない」ことが繰り返されることがあるし、一方でそんなに深い関係や思い入れがないのに名前はいつでもスルッと問題なく出てくると言う人もいる。女優を例にすると、私の場合、米倉 凉子とか松嶋 菜々子とか多部 未華子とかは何度も名前が出てこないことが起きた。だからどうだってことではないものの。
気分がイマイチにもかかわらず、戸塚駅でのミスを払拭したいのか、帰ろうと思えないまま、浦賀から横須賀、横須賀から横浜へと、なんとなく移動して写真をずっと撮り続ける。本日の撮影枚数710枚は、もしかしたらいままでで一番たくさん撮ったことになるかもしれない。なのに選ぶ写真がこんな当たり障りのない鉢植えでっせ。最後までちぐはぐな感じの一日。