梅の花を見に行った


「ネットで調べたら小田原のフラワーセンター(フラワーガーデンだったかな・・・)の梅は、平年よりも二週間も早く咲きはじめて、早咲きの種類の木は既に見ごろを迎えている。だから行ってみよう!」
と言う内容のメールを、午前10時過ぎに、珈琲を飲みながら読書(長嶋有の「佐渡の三人」)をしていたとき、受け取った。
 そういう施設があることは知らなかったが、買ったまま一度もデータ更新もしていないまま十年くらいが経っていて、新しい高速道路を走ったりすると、当然だけど、なにもないところ(地図上では等高線しかないところ)を真っ直ぐに進んでいるような表示になり、それってなんだか小さな戦闘機かなにかに乗って、すなわち決してセスナは想像されないってことなのだが、どこかに向かって一直線に飛んでいるみたいだから、そういう表示が出るのが嫌いではないんだけど、そんな使えないナビ、というのは言いすぎで十年前の古い地図情報でも八割か九割方正しいわけだが、そのナビに施設名を入れたらちゃんと出てきたので、私が知らなかっただけで少なくとも十年前にはあった施設なのだった。小田原市と言えば、なんとなく駅前から海側に広がる商店街や、小田原城の回り、少し足を延ばして小田原文学館とかは行ったことがある。川崎長太郎の住んでいた小屋があった場所とその近くの、小説「抹香町」に出てくる旧遊郭街も一度だけだけど歩いたことがある。
 今日の目的地は、そういう「知っている範囲」よりも北なのかな北東なのかな、全く初めての場所のようで、途中小田急小田原線伊豆箱根鉄道大雄山線の線路の下を抜けて、初めての場所は比較的近くても、知らないと言うだけで遠くに来たように思えるし、初めてだから慣れ親しんでしまうと「スルーする」ような場所も目につくので、ワクワクしてくる。アマゾンのでかい倉庫があって、ナビの地図ではなんとか言う会社の名前が出ていたので、この十年のあいだにその会社がその土地を貸すか売るかして、ということはその会社は移転してその事業所は閉鎖しだろうと当たり前の推理をする。
 途中で、昼食を食べることにして、運転をしながら道沿いになにか食べるところがないかと気を付けていくと何軒か蕎麦屋を見かける。しかし駐車場がなかったり、なんとなくピンと来ないなあ・・・などと通り過ぎていくと、大きな看板に「やわらかいタンシチュー」と書いてある。
 タンシチューが名物のその店は満席だったが十五分くらい待ったら案内された。三月末で閉店と言う知らせが書いてあった。山小屋風の古そうな作りの店だった。数段の階段を上りドアを開けると、いまは使われていないようだが、小さなバーだった曲線を描いた木製のカウンターが見える。そこから左に数段を降りると大きなガラス窓に囲まれたテーブル席のエリアがあるのと、同じくそこから右の方にはもうちょっと囲われた(個室ではない)感じのテーブル席。その右の方の席が空いたのでそこに案内された。この建物は最初からレストランだったのかな、そうだとしても昔はもっと大人数を受け入れる体制で運営されていたのかな、いまはシェフやその奥さんも年を重ね、後継ぎもいなくて閉鎖を決めたのかな。とかなんとか、アマゾンの倉庫になる前の会社のことを想像するより、ずっと怪しい想像をしたりする。使われていない二階もあるようだった。
 タンシチューはとても柔らかい。少ししょうがの香りがした。閉店を惜しむ客が来るのか、それとも評判の店でいつも混んでいるのか、私たちのあとにもやってくる客が絶えなかった。
 梅はずいぶんと咲いていた。いろいろな種類があってすぐ近くで花を見ていると面白い。雄蕊が鼻毛のようだな、などとあまり感心しないようなことを思ったりする。いい香りが漂うのだった。
 写真は、そのタンシチューの店に置いてあった塩のボトルに描かれた山の絵。