大晦日の夜の街


 人通りは少ない。どの家でも居間で大晦日のテレビを見ているのだろう。私はTと知らない街を歩いている。Tが次に住む候補の街をいくつか見に行くと言う。どれも降りたことがほとんどない駅だったので、では同行して街を写真に撮ろうと思ったのだ。どこも住宅地だから、すなわち観光でも仕事でも行くことがない。そこに住まない限り、あるいはこういう動機に同行しない限り、まず行くことがない場所だ。綱島は三十年以上まえに会社の五つ先輩のOさんが結婚して祐天寺から綱島に移り住んだときに引っ越しの手伝いで行ったことがあるがそれきり縁がない。妙蓮寺は何回も通過したが、たぶん一度も降りたことがない。戸塚は入り組んだ路地がある昔ながらの商店街がトツカーナに再開発されてしまった。商店街のあった十数年前かしら、そのころには何度か行ったものだったがここ数年は縁がない。以上の三つの街を歩く。横浜は坂道が多い。カーヴした道も多い。階段でつながる細い道だってある。そういう「入り組んだ」街は魅力的だ。高台から遠く夜景が見下ろせる場所に不意に出ることもあった。それにしてもよく歩いた。日の暮れは綱島駅近くの鶴見川だろうか、土手から眺めた。
 帰宅したら右足の親指の側面に豆と言うか水ぶくれができていた。一昨年だかに辻堂のテラスモールのアーバンリサーチドアーズだったかで、セールになっていた3000円くらいの布製の紺色スニーカーを履いていた。ずっと使ってなかったのを最近急に使い始めた。靴だって流行があるのだとすると、一年以上も「ずっと使ってない」と言うのは時流に乗ろうという意識がまったくもって欠如している。足の大きさが右と左で微妙に違う。その差をおおらかな包容力で吸収可能な靴もなくはないが、たいていは苦労する。右が小さいことに苦労する場合と左が大きすぎることに苦労する場合がある。こう書くとなんだか馬鹿みたいだな。
 上の鉄塔の写真、露出オーバー気味に入っている信号があることも含めて、今晩撮ったなかでは一番気に入った写真です。なんだか空が熱を帯びたホカロンになっているみたい・・・なんていう奇妙な感覚で。誰もわかってくれないか・・・

 さてと、今年も一年、どうもありがとうございました。