雨やマヨネーズ

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その日は雨が降っていた・・・という風に思い出す、物語が展開するような雨の日があっただろうか?あったに違いないが、あったことが収まっている場所が空っぽでなにも浮かばない。やっとひとつ・・・寒い早春の雨の日に小さな港町の海に面した駐車場の車の中にいたことがあった。その港町に降りるカーヴのある道を下る少し前に、名もなきお堂の横にある立派な枝垂桜が満開だった。もうひとつ・・・家に帰ると家の鍵が閉まっていたから、玄関ではなく台所の方の小さな引き戸のひさしの下で雨をやり過ごしながら待っていたこともあったが、そのときにラジオを持っていたわけはないのになぜか平和と鳩のことを歌った曲が聞こえていた気がする。さらにひとつ・・・雨が降り風が強い夜を超える夜行の急行電車に乗りバスに乗り継いで高原に行ったことがあったけれど、高原はガスっていて遠くが見渡せるとたくさん咲いている黄色のユリの花を見ることもできずそうそうにバスに乗って電車の駅まで戻ってきた。あのとき夕方に出る急行までの待ち時間をやり過ごすためになにか映画を見たような気がするのだが、なんの映画だったのか?

ひとつは三年前で、一つは四十年とちょっと前で、ひとつはたぶん五十五年くらい前の出来事の壊れかけた記憶。いまひねり出した記憶。

雨の日の、客が少ない地方都市の駅前映画館では、スクリーンにさんさんと日の光を写した場面が投影されていただろうか。たぶんそうだったのだろうな。

別の日のこと、その映画館のある地方都市の駅から同じく急行電車に乗っていた。髪の長い同性の同級生の友達が一緒で、急行の自由席はほぼ満席で、四人掛けのボックス席にはす向かいにかろうじて私と友達が座っていた。途中で駅弁売りがやってきたと思う。高原キャベツが入っている弁当だった。そのキャベツがとても美味しかったのだが、本当に美味しかったのか、それともそういうシチュエーションのなかで高原キャベツを謳った弁当を食べることに自分で酔っていたのかはわからないな。

でもなんとなくそんな気がするのは実はマヨネーズが美味しかったのではないだろうか。