飲料の名前の出てくる曲

 コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言で首都圏の会社が休業になっていた2020年の春の日々には栃木県の事業所に仕事場を移して、リッチモンドホテル宇都宮駅前アネックスに連泊して暮らしていた。あるよく晴れた日曜日に人混みのない道を早朝に散歩してからホテルの部屋に戻り、二十歳ほど年若の同僚に、無料で使えると教えてもらったスポティファイで、10代後半からそれ以降、ずっと聴いてきたザ・バンドの曲を流しつつ、Kindleで買った深緑野分の戦場のコックの話を読んでいた。スポティファイからはザ・バンドだけではなく「少し似ているかもしれない系統」のロック音楽も流れてきて、そこで聴いたジェイホークスやソーンズやブラック・クロウズのアルバムが聴いてみたくなって、何枚かCDで買ったものだ。1970年代80年代、ヨーロッパのバン ドも聴かなかったわけではないが、アメリカの、それも西または南の、ちょっと土臭かったり日差しの匂いがしたり、アコースティックな感じもする、すこし(計算づくで)ルーズな演奏が好きだった。音楽の嗜好は、音楽に対してまだまだ白紙のときに、先輩からや友人から、本やラジオや恋人から、ひよこが親鳥を覚えるように、最初にどんな音楽をどんなバンドを推されたか?により決まるところもあると思うけれど、それだけではなくて、いつのまにか出来ている自分の嗜好があって、では何が自分の嗜好を決めてきたのかな?中学のとき自作したゲルマニウムラジオで、夜、布団に横になってから聴いていた「若いこだま」という番組でツェッペリンも知ったけれど、そこにははまらなかった。

 ザ・バンド南十字星というアルバムが日本で新発売されたそのとき、わたしは十八歳くらいかな、レコード屋に行ったときの光景を、それが正しい記憶なら寒いどんより曇った晩秋か冬の日で、そのアルバムのジャケット写真の、焚き火を囲むメンバーの写真を使ったポスターがレコード屋のガラス窓に貼られていた。今調べたら1975年の1月発売で、それは大学受験を直前にした暗鬱な冬だった。

 今朝は読書中の呉明益著「自転車泥棒」を読みながらスポティファイで、このバンド、この歌手、というのすら入力せず、あなたにおすすめの曲集を適当に選んだら、サニー・カー・ウォッシュという今年の春には解散したらしい日本のバンドの曲が流れてきた。何曲目かの曲名はティーンエイジブルースというタイトルで、歌詞に「ドクター・ペッパー飲み干せば 魔法のように呆れた顔の君も いつかはいなくなってしまう」と歌われていた。なんてことのない話。あ、ドクター・ペッパー、あの飲み物が出たときは子供も大人も、なんだ!?どんな味だ!?とばかり、みな楽しみに最初のひとくちを飲んだけれど、あまり美味しいとは思えず(なんか薬みたい、という声が多かったな)、そのまま日本では一般化してない感じだ。日本発売は1973年だったそう。わたしより16歳若い。16歳、大した年の差ではない。でもドクター・ペッパーの歴史は古くて1885年だかにアメリカで発売されたようだ。ウィキペディアによれば。

 日本の流行歌(でいいのかな)に飲料の名前が出てくると、なんだかその飲料にまつわる個人的なことが、他の歌詞よりダイレクトに思い出されたりするんじゃないだろうか。吉田拓郎コカ・コーラ(いつもチンチンに冷えたコーラがそこにあった)をはじめとして、くるりのばらの花のジンジャエール、最近聞いたtetoの光るまちのコカ・コーラは薄かったらしい。いちいち今日は書かないけれど、自分にもコカ・コーラジンジャエールの思い出がたぶんあるんだろう。キャラメルマキアートやアップルルイボスティーが出てくる曲もあるのだろうか? キリンの世界のKitchenシリーズにむかしあったマセドニアグレープって言うの、あれは大好きでしたね。消えてしまった飲料で復活希望ナンバーワンです。 取止めのない話でした。そのアップルルイボスティーを飲みながらスタバでこの文章を書きました。雨の日曜日。寒い日続く。

写真展まであと半月を切りました。


南十字星(紙ジャケット仕様)

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