残ったナメコ

 今日は久しぶりに電車で出社。夜の7時頃に会社を出て最寄り駅まで歩く間、小学校の四年生か五年生くらいの女の子二人が自転車に乗ってわたしを追い越して行った。一人の子が、生の肉が美味しいよ、と言い、もうひとりの小さな方の女の子が、びっくりした感じで、食べたことないな家では食べないよ、と答えていた。もう7時は暗い。自転車のヘッドランプはLEDライトになったけれども、そこから前の道を照らす光は先に行くほど広がる二等辺三角形でむかしと変わらない。たまたま会社を出る前にヤフーがなにかのニュースで生肉を食べて食中毒になった人のことを読んだばかりだったので少女たちの話をほのぼのと聞ける感じではなかったものの、こういうふうに、それぞれの家庭の当たり前が、別の家庭では常識から遠く、ありえないと思ったことが確かにあったなと思う。今晩、小さな方の女の子は、だれだれちゃんちは美味しい生肉を食べるんだって、いいな、私も食べてみたいよぉ、と言うかもしれない。両親は生肉なんか食べたらあたるからだめですよと育てられ、子供もそう育てていて、まったくもぉ……なになにちゃんちは困ったものだと思ったりする。それにしてもたしかに生肉を食べるとだけ聞くとちょっと驚く。鶏わさのことか、ご両親のどちらかが(長野かな?)出身で馬刺しを食べるのが当たり前でときどき冷凍したものが故郷から届くとか、いろいろ想像してしまう。
 小学生のころ、少年マガジンやサンデーを同級生のみんなが読んでるらしいと知ったときは少し驚いた。家ではなんとなく漫画なんか読んじゃダメだという空気だったし、そもそも読んでる友達はいないと思っていた。特にその頃好きだった女の子、可愛くてすばしっこくて子鹿みたいな←(笑)本当にそう思っていた(笑)…K子さんも少年マガジンを読んでることを知り愕然としたものだ。でもその後も止められていたわけではなくあんまりマンガ誌にははまらないままだった。
 以前、テレビに、バラエティー番組で4歳5歳くらいの幼児に食べ物では何が好き?と聞いている場面が映っていて、ちょっと見ていたら、オムライスやハンバーグや海老フライといった誰もが納得しそうな答えが続いたあとに「僕は椎茸です」と答えた子がいた。テレビの中でもタレントが笑い、子供はちょっと困ったような泣きそうな顔をして俯き、司会のタレントが子供の視線の高さまで屈んで、椎茸は美味しいよねー、と話し掛けた。
 少女たちが生肉の話をしているのを聞いて、少年マガジンの話と椎茸好きな幼児のことを思い出したが、これらに共通なことはなんだったんだ?誰かにとっては当たり前に好きなこと、生肉を食べる、少年マガジンを読む、椎茸が一番の大好物、といったことが別の誰かにとっては予想外のことで驚いてしまう、そういうことの記憶の連鎖ってことか。
 小学六年の夏休みに箱根にある小学校の校舎を借りた林間学校があって事前に五〜六人からなるグループは食事の計画を作って食材を買って揃え、持っていく決まりだった。誰かの家に集まり何を作るか、食べたいか、を相談して食材をリストアップした。あのときわたしは大根おろしにナメコを和えた簡単な料理を母が作ったのかな?食べて、すごく美味しくて、マイブームだったから、ナメコを買っていくことを主張したのだ。買っていったがそれをどう使うかまで計画されておらず、最後になって、これどうするんだ?と残ったナメコを囲んで、みんなで困っていた。味噌汁にでも入れれば良かったのにね。

 いつ撮った写真か忘れてしまったな。こんな赤系のチェックのジャケットを着たことがないです。これからも着ないだろう。だけどこのジャケットも帽子との取り合わせもカッコいいなと思う。