時間が止まっている

 少し前の晴れた休日に、京浜急行線の品川駅から立会川駅まで旧東海道を歩いてみたことがあった。その途中で見かけた昭和40年代か50年代に建てられたと思われるレトロなマンションを見つけた。ほぼ正午の冬の日差しがマンションの玄関に当たり、グリーンマンションという名前らしい、そしてその名前の通り緑に塗られた玄関ドアが目をひいた。あとになって賃貸情報を調べたら1976年の建物らしい。昭和51年だ。もう少し後ろに下がりたかったが、これがこのとき付けていた35mmのレンズで撮れる精いっぱいだったのかもしれない。名前の通りの緑のドアは、ずっと緑だったのか?そんなことはわからない。いま私が住んでいるマンションのエレベーターのドアは、竣工した80年代後半のときは確か紺色だった。防錆寿命の新規塗り替えのときに、ワインレッド色になった。塗り替えられて最初は、えーっ赤っぽいのは変だなあ・・・と思ったものだが、すぐに慣れてしまった。このマンションの、この写真の右側へ数十m行くと運河の船溜まりがあり屋形船乗り場もあった。

 ずっと緑に塗られて、築47年が経過してきたのであれば、その方が物語があっていいな。

 このあと京浜急行線沿いの旧東海道から右に折れて、JR大森駅まで歩いてみた。大森駅前住宅という大きな公団の?マンションがあるが、その近くには中古カメラ店が一軒、ぽつんとある。店内には店主がジャズを聴きながら座っている。初老のおじさんで、流れているのが誰のなんというアルバムかまでは分からなかったが、モードに移行したころのマイルスのバンドのような「感じ」だ。なんかもう、この店内だけ時間が止まっている感じがする。時間が止まっているというのは、価値や流行がむかしのままで尊厳が維持されている感じだ。フイルムカメラの尊厳、ジャズ音楽の尊厳。それは私にとって居心地がよい。