はじめて撮った写真

  梅の木が十本かもう少しだけ植えてある小さな梅園。逆光の位置に立って、ピントを合わせるひとつの花を定め、枝の位置にも気を配り、絞りを開いて深度を浅くして写真を撮った。近くを通り過ぎた人が、まだ早かったね、と言っている。桜と違って梅には明確に足並み揃えて一斉に満開になり、すぐに散る、というような経過はないから、桜をイメージしているといつだって「早かった」か、または「遅かった」になるんじゃないか。実はこの咲いている花と蕾が半々くらいがいちばんきれいな見ごろかもしれない。昨日のブログにフイルムカメラ礼賛のようなことを書いたけど、舌の根も乾かぬうちに・・・これはデジタルカメラで撮っています。大口径の50mmレンズ。

 すごくむかしのことです・・・昭和36年くらい?四歳くらいの幼子だった私が父のオリンパス35Sを使わせてもらって、両親が花の咲く梅の木の下に並んでしゃがんでいるのを写真に撮った。アルバムに貼ってあったその写真に「はじめて撮った写真」と母が万年筆で書き添えてあったから、公式には私の撮った最初の写真はそれだ。きっとそれなりに写った最初の写真だったんじゃないだろうか。画面は4度くらい右下がりに傾いていて、両親はこちら、カメラを向けた私を見ているのだが、写真に写ろうとして微笑んでいるのではなくて、ちゃんと撮れるかしら?という少し心配する感じの笑顔で写っている。繰り返すがそれが梅の咲く梅林で撮られた写真だったので、梅つながりで思い出した。たぶん当時住んでいた家の近くにあった農林省の試験場敷地内の梅林だったのではないだろうか?ピントはばっちり合っていたから、父がピントが合う位置にフォーカス環を回してから私にカメラを渡したのだろう。

 その写真の貼られたページには、ほかにももう何枚か写真があり、なかに梅の花のすぐ横に4歳くらいの私が立っている写真もあった。顔の向きの加減で、いかにも日本人の幼児らしい私の真ん丸の鼻の穴が、梅の花の横に並んで写っている写真があった。そしてその写真の横に、やはり万年筆で写真のタイトルが書かれていた。そのタイトルが「花と鼻」だったのだ。子供の頃アルバムをめくってその写真とタイトルを見つけると、げらげらと笑い転げたものだった。タイトル「花と鼻」を付けたのが父だったのか母だったのかはわからない。