種明かしはしない方が面白い

 2010年の春、4月1日に日比谷公園で撮った写真のなかに、こんなスナップがあった。たぶん四人のご家族。日本の方ではないように思える。晴れた暖かい日だったのだろう。今年は春の訪れが早かったから、この写真に写っている木々は今年の4月1日にはもう新緑が吹いていたのかもしれない。ネットで2010年の東京の桜の開花日と今年2023年のその日を調べると、今年より8日ほど遅い春の進みだったようだ。

 写真を見るとこの日のことをなんとなく覚えているものだ。この写真のことは覚えていなかったが、公園内のレストランに列があったことや、噴水のある広場に人々が座って寛いでいる風景を。

 こうして12年後に写真を見直していたときに、この四人家族は日本庭園にありそうな短い小さな木橋を前にして、仲良く横一列になって手を繋ぎ、だけど歩き出す様子もなく立ち尽くしているのは、ちょっと不思議だなと思った。写真に写っていないなにか厄介なものが橋の上にあるのだろうか。そこで写真を拡大してつぶさに観察してみると、父親の左手と母親の右手が組まれた、ふたりのあいだの隙間になにか黒いものが写っているのに気が付いた。そこを拡大してみると、最初はそれでもその黒いものがなにかわからなかった。デイバッグのようでもあるし。二人が組んでいる手の肌色とは違う肌色も見える・・・しばらくそこを見ていたら、ふっとある瞬間にわかった。この二人の大人の隙間にちょっとだけ写っているのは、しゃがんでこの四人を撮っている別の人・・・カメラマンだ。家族を案内している人が撮ってあげているのか、家族からカメラを渡された、たまたまそこにいた誰かが頼まれて撮っているのか。四人が立っている理由がこれですっかりわかった。

 だけど二人の隙間に写ったカメラマンがもう少し右や左に寄っていて、なにもヒントが残っていないときに、可能性のひとつとして誰かに写真を撮ってもらっているところじゃないか?という正解を予想できるものだろうか?私はなんだか不思議だなあ・・・(上記のように)厄介なものでもあるのかな?としか可能性を思いつけなかった。

 そうか・・・いまこの瞬間、この四人が未来もしくは過去からタイムスリップしてここに不意に舞い降りた瞬間なのだ・・・というのも、今、ここを書きながら思いつきました。

 これが写真を撮ってもらっている家族の後ろ姿だとわかった途端に写真の見え方ががらりと変わってしまって、残念ながら、写真がつまらなくなった気がするのだった。謎や不思議が残っている方が、なににせよ、ミステリアスで楽しい。

 中学生のころに、誰かが雑誌か新聞か、何かから切り抜いたという写真を教室に持ってきた。そこには裸の身体が写っていて、大人の男と女が裸で抱き合っているように見えたから、教室内(の男子)が騒然となっていた。みんなで、見せろ見せろ!と集まって、おーっ!となった、ふくよかな裸の胸のふくらみが明らかに写っていた。だけど、持ってきた本人が最後の最後に笑いながら明かしたのは、それはスポーツ新聞から切り抜いた昨日の大相撲の決定的瞬間、例えば大鵬柏戸(がその頃現役だったか確認してないけれど)が四つに組んでいる写真だった。そこから大相撲とわからないように、ちょっとドキドキする見え方になるように、切り取ってあったのだ。それが判ってしまうと、もう二度とさっきの妄想は起きないのだった。種明かしされちゃうと熱中が覚めるというのは自明ですね。