豊悦の梅安

 1980年代には250cc排気量のオートバイに乗って、仲間と泊りがけのツーリングに行ったりもしたし、一時期は通勤にもバイクを使っていた。あの頃は、春や秋のオートバイを運転していてとても気持ちの良い季節になると、道路にはたくさんのオートバイが行き交っていて、赤信号になると、四輪車のあいだを縫って来たソロや数人のツーリング族のオートバイが、四台五台と信号待ちの一番先頭に集まってきては、信号が青になるといっせいに飛び出していったものだ。いまも赤信号になると、たまにオートバイが前に出て来るが、せいぜい一台か二台だ。当時は片岡義男などが書いたオートバイが出て来る小説も書店にはずらりと並んでいたし、若者の趣味というかレジャーとしてもバイクのツーリングというのが上位にあったんだと思う。その後大型スクーターブームもあったけれど、いまでもそういう趣味はあるものの、数でいえばずいぶん減ってしまったのではないのかな?なんででしょうね?気持ちいいのになぁ。

 写真の交差点は上大崎で、JR山手線などの目黒駅から、東京都庭園美術館へ行く途中にある。ここに来ると、なんだか必ず写真を撮ってしまうのは、なんででしょうね?この高架の道の青い線の入った壁や、庭園美術館方面は高いビルがなく空が広いことや、いろんな自分の好みの風景を作ってくれている要素があるんだろうな。

 話変わって・・・数日前に、最近はNHKすらほとんど見なくなったテレビの電源を、気紛れでふと数日ぶりにONしてみて、適当にチャンネルを回してみた。たいていはこんなことをしても見たい番組には出会わず、すぐにOFFすることになるんだけれど、BSの民放でちょうど豊川悦治が藤枝梅安を演じる時代劇映画必殺仕掛け人が始まったところだった。30代の頃に、池波正太郎は、仕掛け人シリーズも、鬼平シリーズも、剣客商売のシリーズも、すべて完読していたから、懐かしくなり、そのまま二時間強の映画をすっかり観てしまいました。

 映画でもそういう場面がちょっとあったけれど、小説の中では梅安と彦二郎がふたりでちょちょっと料理を作って食べるところ、簡単なレシピでだけど実に旨そうな料理で、ちょっとお酒を引っ掛けたくなる。そういうところがたくさん書かれていた。その場面に憧れて、2002年、単身赴任生活をはじめた当初、イワタニのコンロの上に一人用のアルミの鍋とか小さな鉄板を載せて、買ってきた旬の食材を焼いたり煮たりしてみたことがあったな。ほんの最初の二か月くらいで、面倒くさくなって止めてしまい、以降15年、もう自炊なんか(野菜不足を気にして買ってきたトマトを切ったり、アスパラやブロッコリーを茹でたりする以外は)まったくしなかったけれど。そのときにも牡蠣の好きなわたしは、スーパーで買ってきては、一人鍋にしたり焼いて食べたりしたものだが、食材というのは一人暮らし用の単位では売っていないので、ひとつの食材(牡蠣なら牡蠣)ばかり食べることになる。あるときは一週間かけた食べようと思ってトマトを六個くらい買ってきたら、急な出張が決まり、しょうがないので一回の夕食で、いっぺんに四個分のトマトばかりサラダを一人で食べたものだ。

 こういう文章になってしまうのも、秋はなにやら、あれこれ食べたくなることに端を発して、無意識に書いてしまうのかな。