チキンカツ定食 900円

 先日、横浜を歩いていて、午前10:30頃だったろうか、早くもオープンしている町の昔からずっとあったように思える洋食屋さんに気が付いたので、少し逡巡しつつも、思い切ってドアを押してみた。ランチは、ポーク生姜焼き、ビーフクリームコロッケ、メンチカツ、チキンカツ、あと一つくらいあったかもしれない、味噌汁も付いて900円。チキンカツを頼んで、まだ先客が一人しかいない店内を見回すと、そこここに絵が飾っている。料理は丁寧に一つづつ作っているようで、カウンターの中の厨房からカツを揚げる音が小気味よく聞こえている。カーテンや日に焼けてよれよれで、革または合成皮革かもしれない椅子の座面は破れたところを補修しているうちに、とうとう座面全部がビニールテープで覆われてしまった、それもどの椅子もどの椅子も全部そう、というように傷んでいるものがつかわれていて、椅子のバネも軋むというよりヘタっているようだ。フォークとナイフは白いナプキンペーパーに丁寧に包まれて置かれた。店内のテーブルの上にある天井から下がったランプの傘が鉄になにかの模様の切り抜きがあり、夜になりランプが灯ると影が揺れるのかもしれない。たくさん飾ってある絵を、席を立って見てみたが、奈良美智の絵が一枚、あとは画家の名前はわからなかった。このあたりには古くからやっていたと思われる比較的庶民価格の洋食屋がほかにも知っているだけで二軒はあったが、両方ともコロナが原因だったのか、閉店している。まだこんな「つむじ風食堂」のような洋食屋が残っていたのか、と感慨さえ覚えた。店は、少なくとも私のいた時間は相当高齢の女性の方、80代?が一人でやっていて、水を持ってきて注文を聞き、料理をして、料理を運んでくださった。900円を払うときに「絵がお好きなのですか?」と聞いてみたが、うまく通じなかったかな。でも「ええ、ええ」とおっしゃった気がしました。また行きたいな。