豊橋へ、山本昌男KAWA=FLOW展を見に行く


 茅ヶ崎発6:16、下りの静岡行きがある。東京は5時20分頃発という計算になる。むかし、東京発の東海道線普通電車には豊橋や浜松や静岡行きが普通にあったと記憶しているが、いま、熱海や三島よりさらに向こうへ行く電車はほとんどない。この早朝の静岡行きと、そのあとの沼津行きくらいではないか。静岡行きはグリーン車は付いてなくて、9両編成と東京発の東海道線普通電車としては短い編成。車両はいまはなくなった特急東海号とかに使っていた種類なのではないだろうか。通路の両側にそれぞれ二席づつ、基本は進行方向を向いて据えられたリクライニングも出来る座席。というわけで遠方に行くときには、乗り換えも少なくすわり心地もよく、申し分ないのだが、ということはこの電車を使いたいと思う方も多いだろうし、今日は連休の初日だからそもそも混んでいるだろう。朝早く起きるのもつらい。
 今日は豊橋のギャラリー・サンセリテまで山本昌男写真展を見に行くことにした。5時25分に目覚ましがなり、なんとか目覚める。てきぱきと着替え洗顔などをこなし、自転車で出る。市営駐輪場に止めて早足で駅へ。三連休の初日で案の定6:16静岡行きの電車は混んでいて、入線してきたときにはぽつぽつと立っている人もいるようだったが、なんとか座れる。途中、熱海あたりまではほぼ満席が続く。低い雲が垂れ込めていたが、富士あたりから晴れてきた。文庫になった黒野伸一著「万寿子さんの庭」を読んだり、車窓風景を撮ったり、音楽を聴いたりしながら車中を過ごす。私は長時間電車に揺られているのが苦にならない。柿の実がなっている田園風景を眺めたり。
 静岡から浜松行きに乗り換え。次は浜松ではなくて、ヤフー路線案内に従い、途中駅の掛川で乗り換える。掛川で乗り換えた掛川始発の電車はさっき乗っていた浜松行きの客を浜松でどっと乗せた。ヤフー路線案内どおりに乗り換えると座れる確率も高く出るようで便利。豊橋10時47分だったかに到着。待ち合わせしている、名古屋からやって来る林林さんは11時半着なので、駅の周りを散歩。事前に調べておいたどなたかのブログに線路をまたぐ道路の下に小さな飲み屋街が並んでいるというレポートと写真があり、その写真の昭和的風情に惹かれたので行ってみたが、見つけられなかった。駅の周りは盛んに再開発中(もしくは再開発半ばで不況になって開発中止中かも)らしく、そういう開発の「波」に飲み込まれてここ数年のあいだにそういう飲み屋街も消えたのかもしれない。
 林林さんと合流し、何度か豊橋に来たことがあるらしい彼の案内で街をぶらつき、途中古めかしい洋食の店でメンチカツを食べ(林林さんはコロッケを食べ)、豊橋市公会堂などの歴史的建造物も見学し、2時ちょっと前にギャラリー到着、3時過ぎまで一時間半弱、写真を見たり、ギャラリー二階に作られた茶室を見せてもらったりして過ごす。最初は冷たいお茶と、帰る間際には暖かいお茶をいただく。
 山本昌男はいままで小さなたくさんのプリントを壁を一杯に使ってランダムに展示する方法を使っている。また以前に中目黒のギャラリーで見た個展では箱に入れた写真を自由に触らせていて、写真がヒトの手を経た変質みたいなことを再現しようとするような試みかなと思ったりもした。そういうあまり見られない作品の見せ方をしてきている。
 しかし今回の写真展は同じサイズの銀枠のフォトフレームを使い、同じ高さに整然と写真をそろえたコンベンショナルな展示方法を取っている。即ち、山本昌男の特徴はこうです、と説明しようとするときに、作品そのものではなく展示形式に言及することで「お茶をにごす」ことが出来ない。これは作者側にとっても鑑賞者側にとっても、特に作者にとって「ここからこことは違うどこかへ」という意図が強いし、もしかしたら相当な覚悟とか冒険心があったのかもしれない。
 写真はどれも現実世界と別にある現実世界がコラージュされているように思える。その不思議さをもってして注視を誘う。ボルヘスの「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」のような別の世界の存在を垣間見せる。その垣間見える隙間があるのが寒く荒漠とした自然のどこかで、あるいは一日のうちの逢魔ケ時の一瞬なのである、といったようなことを直感させる。
 写真を見たあとに林林さんが、宇宙の解釈に関して、空間軸とか時間軸とかの図式を手振りで解説しながら感想を話す。なるほどそういうことを思わせる写真である。
 宇宙感とかを科学的に立地するか直感的(芸術表現的)に立地するか、いずれもそこには人の関心を惹く力が当然ある。個人の嗜好にもよるのだろうが、このブログでも今まで紹介してきた野村仁や野口里佳などは手法としてもあるいは作品作りの考え方の基盤にも、かなり明確に科学的よりどころを持っている。山本昌男にそういう明確な科学的根拠はないかもしれないが、それでもそういう宇宙的なことを思わせるのは、やはりそういうことに通じているところがあるからだろう。だけど、もしかしたらそんなことは当たり前ですべからく表現とはそういうことかもしれないし、さらに突き詰めれば、それが世界なのかもしれない。
 ラストのDMにも使われている山なみと川の飛行機から撮られた写真などは、単なる風景を越えて、宇宙のことを考えるときの漠然とした怖さと、紙一重の陶酔を感じる。
 山本昌男ウェブサイトは。(http://www.yamamotomasao.jp/)皆さんの感想はどうですか?

 ギャラリーをあとにして、近くの公園を通り抜けていくと、数日前の台風で柳の木が裂けていたり、梅が根本の土ごとえぐられるように倒れていたり、椎とかプラタナスとかナラの木も多くは枝を折られ、まだ緑のどんぐりも一面に落ちている。倒れて散歩道を塞いでいる枝を踏み越えて歩く。
 4時半ころに駅に戻ってきて、近くの豊橋ビルという古そうなビルの一階にあるジャズ喫茶グロッタで珈琲。棚一面、レコードがぎっしり。
 5時過ぎからつくねや本舗という居酒屋で一時間と少し。ビール、名物生つくね、かんぱち刺身、等々。生つくねというのは、
「普通のつくねは焼く前に一度蒸すのですが、当店の生つくねは蒸さずに焼いておりますので、その分ジューシィにいただけます」ということらしい。確かに柔らかくて美味しかった。
 豊橋18時35分発で帰宅。茅ヶ崎駅着22時55分頃。浜松、沼津、熱海、で、乗り換え。帰りはちょっと疲れた。途中「万寿子さんの庭」を読了。


ギャラリーの近くのトタンの建物。なんだか白昼夢の舞台になりそうな・・・


近くの公園では子ども会の秋祭り。爆竹が鳴る。飛行機の乗客にはわかるまい、この秋の日。


ガレージABCDEF。近くを短い電車が走る。


ガード下の飲食街は見つけられなかったが、こんなところはありました。