別世界からの電送のような


 上の写真は西新宿の路地をうろうろして撮ったものです。

 さて、26日、土曜日。曇り、ときどき小雨。
 夕方5時から中野坂上東京工芸大学写大ギャラリーで開催中の高木こずえ展「MID/GROUND」の関連イベントとして、高木こずえ氏×小林紀晴氏のトークショーが開催されたので聞きに行ってきた。
 以下敬称略で。
 高木こずえ。写真新世紀のグランプリを同じ人の顔を左右に分けて、反転左+左と反転右+右の二つの顔をした人をまるで双子の記念写真のように並べた作品で受賞したのが2006年だったかで、正直言ってそのときに私は、この手法の「意表を突く」点が、むしろ「奇襲」に過ぎず、これからこの作家に何を期待できるかが見えないなあ、と否定的な感想を持っていた。
 ところが、昨年出版された「MID」と「GROUND」で木村伊兵衛賞を受賞し、それを知ってから雑誌記事とか赤々舎HPなどで、その写真を何枚か見て、特に「MID」の方は、よく取り上げられている猫(兎かな?)を抱いた写真や、何かを接写したと思われる人物写真などに惹かれた。なんで惹かれたのかな?「なんとなくの淡い優しい雰囲気」もしくは「物語のピークをずらした非決定的瞬間」が主流っぽい若い写真家の中にあって、私自身もそういう写真が好きでもあって、それなのに強引に目を見張らせるような力が漲っているような感じとでも言うのか・・・。
 7月号の日本カメラ誌での小林紀晴との対談ページには、写真の上にドローイングした作品と、諏訪の御柱祭を撮った写真も紹介されていて、前者も後者もそれぞれになんだかこちらをくすぐる。稚拙な第一次的感想は「なんかかっこいいよね」という感じ。
 そんな風に最近高木こずえや同時に伊兵衛賞を受賞した志賀理江子の写真なんかが気になっていたので、今日は午後になって中野坂上まで出かけて来たという訳です。
 トークショーの中で、面白かったのは、高木も小林も、二人とも今年の御柱祭の木落としの特等取材席から写真を撮っていた(小林によると二人は二メートルくらいしか離れていなかったらしい)のだが、諏訪出身で御柱祭に子供のころからずっと属していた小林が撮る、その祭りへのリスペクトを前提とした写真の記録性も重視したような態度、このわかりやすく共感できる態度に対して、高木の写真はピントを外したり、露出を極端にオーバーにしたりと、勝手気まま自由奔放であったこと。高木によれば、カメラのファインダーをのぞき、ピントが合って、その画像を見た瞬間に自分がこの場面はもうちょっとぼかしたいと思うと、ぴっと(距離環を)回してわざとぼかして撮るんですよ、とのことだった。小林にすると、神聖なる(と思ってらっしゃるかどうかは不明だが)御柱祭のクライマックスの木落としの、それを記録すべき最高のポイント(その場所に入る許可証をもらうのは大変な苦労がいるらしい)で、そういう報道写真的には失敗写真を故意に撮っている行為に、すっかり驚いている風だった。そんな二人のなんか微妙にかみ合わないやり取りを見ているのが聴衆としてはなんだかわくわくできた。高木は、なぜ自分がその瞬間にそういうようにピントをずらしたくなったか、それをこれから写真を眺めて考えていく、その考えの先に、作品作りが来る、ということだった。即ち、そのトークショーで投影して見せてくれた写真は、まだ素材段階のものなのだろう。
 トークショーの事前に見た写真展では、それまでHP等でパソコンディスプレイで見ていた「GROUND」にはあまり惹かれていなかったのだが、写真展会場ではすっかり魅せられた。
 いろいろな感想を持った。まずは土の匂いを感じた。それも、長野の、あるいは日本の、というより、被写体に外人が含まれていることもあるのだろうが、例えばローリング・ストーンズの、あれは何と言うアルバムでしたっけ「ダイスを転がせ」の入っている結構ラフな作りの、あのアルバム(メインストリートのならず者、ですね)のジャケ写はロバート・フランクだったかしら、それとも、ダイアン・アーバスだったか、そういうアメリカ南部の泥臭いロック音楽(ブルース音楽)が聞こえ、同時に、高木の写真を見ながらその横に、上記のフランクやアーバスの写真が見え隠れするような感じを受けた。これは自分でも意外で驚いた。あるいは、もう亡くなってしまった少し前の世代の人たちが、ここではない世界から、過去ではなくそこにいる自分たちの映像を高木を通じて電送してくるのではないのか!とも思った。
 GROUNDでは大型プリントの画面全面に様々な被写体、猫や花や人影をコラージュした、安易な比喩だと「曼荼羅みたいな」二点より、その周りの被写体がわかりやすい一連の作品の方が、好きだった。
 MIDに関しても、トークショーの内容も含めて、思うところがたくさんあったのですが、まあ、今日はこのへんで・・・

MID

MID

GROUND

GROUND


 上の下の写真はトークショーのあと、新宿駅まで適当に路地を折れ曲がりながら歩いたときのスナップ写真であります。どってことない。