ふむふむ


 出張帰りにとある町で乗り換え時間が30分強あったので、一度改札を出て、この駅前のバスターミナルはこういう風景なのね、ふむふむ、とか思いつつ、コンデジで一枚二枚写真を撮ったりした。それから、駅前からまっすぐに大きな川までの片側二車線の道を歩き始めた。ところが!災難は突然に襲ってくる。ぬるりとした感触に足を見ると、なんと「糞」を踏んでしまったようなのである。いやはや。でも本当に「糞」なのかどうかが不明。振り返ると、そのあたりに、犬や人やの一回の排出量よりは明らかに多い量の、そして、犬や人の排泄物(健康状態)よりは明らかに「色の薄い」どろどろっとしたカタマリが何箇所かに落っこちているのだった。馬なの?でも馬のなんか見たことないから判らない。
 小学生のころに父が勤めていた病院に、実験動物として、綿羊が一頭だけ飼われていた。そいつのは真ん丸だったからそういうものではない。
 とにかく左の靴底の溝にべっとりとくっついてしまっている。強烈な匂いはない。ないが、気のせいなのか、ふとした瞬間にふんわりとその匂いらしきものが漂うのだった。
 どうしたものか・・・。このまま電車に乗るとまずいよなあ・・・。
 靴は防水仕様のビジネスシューズである。水には強いはずである。そこで、公園とかにある水道で靴底を洗うことに決めた。街角にある地図を見ると、大きな川に沿って昔の城跡が公園になっているようである。そこに行けば、水道があるであろう。川の方から大学生がたくさん歩いてくる。川向こうには大学があるらしい。楽しそうに歩いてくる。もしかしたらあの場所に「糞(らしきもの)」が落下しているのは彼等にとっては日常かもしれず、それを「踏む」なんていうことは余所者だけのイージーミスなのかもしれない。その匂いは余所者の証であり、どこかでその証を頼りにめぼしを付けられて襲撃されるかもしれない。
 夕陽である。下り気味の坂の正面に大きな夕陽。

 その後、予定通りに公園で、落ちていた小枝で溝の「糞(らしきもの)」を掻き出しつつ靴底を洗い、それから駅に戻った。戻ったが、乗る予定の電車はもう四十分も前に出てしまっていた。

 次の電車が来るまで六夜をすごさねばならない・・・なんてことはない。