少し前の写真


 ひとつき程前に撮った写真を見返していると、もうそこには懐かしさが漂っていて、そこにはいまよりまだ少しだけ若い秋の陽射しがあって、なんだか今より溌溂とした光景が写っている。溌溂として見えるのは、今の自分が疲弊していたり落ち込んでいたりしているからなのか?と現象から推測したりするが疲弊はある意味ずっといつでもそうだし、ずっとそうじゃない、とも言えそうで。たぶん、だけど、ほんのひとつき前のことでも、今を見たり聞いたり嗅いだり触ったりしていることに比べれば時間の後ろに吹っ飛んでしまった「過去」はほんの一週間前でもひと月前でも一年前でも十年前でも、圧倒的に微かな記憶と、それを覆いつくす記憶という言葉で整理しているだけの創造の産物であり、だから傍観者のように自分の撮った写真が見えるのではないか。
 そんな中にこの「どこかの駐車場に停められた誰かの青い車」の写真もあって、だけどこれに関して言えば、懐かしさとかいうことではなくて、つい先日むすめと話していて、
『今から30年前の私の大学生時代には学生はみんな自家用車を持ちたくて、その結果手に入れるのがぼろっちい車であることも多くて、例えばGさんは助手席のドアを開けると落ちてしまうから開かずの助手席を有する青いサニーに乗っていて、その車は坂道の上に停めるのが決まりで、何故なら毎日その坂を使わないとエンジンがかからなかったからだ』
なんて話を、妙にむすめに受けるもんだからいろいろと話してしまった。そんなことを思い出したから選んだわけです。

 今日は茅ヶ崎市美術館に「開高健いくつもの肖像展」を見に行った。寿屋(サントリー)時代に作家がかかわったトリスウイスキーの1960年ころから80年ころまでに作られたテレビコマーシャルをまとめた30分くらいのビデオ映像、あるいは1970年代以降の作家自身が登場するサントリーのオールドとかロイヤルとかのテレビコマーシャルをまとめた20分くらいのビデオ映像を、見ていると、キャッチコピーの時代時代における流行というのかな、特徴というのかな、そういうのが垣間見える。一番びっくりしたのは白黒時代ノトリスのCM(アニメーション作品)で、出世した社長さんが、出世しても、課長時代や専務時代同様にトリスを飲んでいるという内容において、社長室で業務時間中にウイスキーを飲みながら秘書をひざの上に乗せてその太ももあたりをさすっているなんて状況が描かれていたことで、笑えました。いい時代だったのねぇ・・・

 なかなかに見ごたえのある展示です。1/16まで。