雨強し


 季刊真夜中のアーリーオータム号「生き生きと世界を見る」に掲載された、岸真理子・モリア著「クートラスの思い出」というエッセイを読んだ。
 今年の四月末日にT.イトウさんと松本へ行ったときに、工芸の五月のイベントの一つとしてギャラリーカフェロボトリオで開催中のクートラス展に偶然行き当った。そのときに、おどけていながら暗く、策略が隠れていそうなカルト(手札大のカードに描かれた絵)の数々に魅了された。会場でロベール・クートラス作品集「僕の夜」を購入した。作品集中に小池昌代掌編が掲載されていたことも購入の動機の一つだった。帰宅して作品集を何度かぱらぱらとめくったが、そのうちにほかの本の山に埋もれてしまっていた。
 季刊真夜中のエッセイを読んで、また興味が沸いたので、本の山から作品集を探し出して何度も絵を見た。それから略歴なども読んでみた。すると「1976年にハンガリーのコリンダというグループ(バンド)の音楽に魅せられ、アルバムジャケットデザインを申し出て実現。販促用ポスターはその美しさゆえ、一晩でパリの街から盗まれてしまった」と書いてあるのに目が留まった。いや、春にもそこのところは読んだかもしれない。ただ、今回は季刊真夜中のエッセイを読んだこともあり、そのアルバムジャケットを見たくなった。
 そこでネット検索したら、鳥取在住のとある女性画家の方のブログにそのジャケットの画像がアップしてあった。なるほどね、これはたしかに、きれいだな、と思い、それからその女性画家のブログを読んだ。

 そんなことをしているうちに外がどんどん暗くなって、やがてものすごい雨が降って来た。

 明後日から出張に出る予定なので、飛行機の中での暇な時間を本を読んで過ごそうと思う。何か長い小説。上記の経緯で行き当った女性画家の方のブログに、愛読書が紹介されていて、その中にアーヴィング著「未亡人の一年」という本があった。これも何かの偶然のもたらした情報である。そこで、この本を読もうと思う。アマゾンの検索をすると古本は数十円で売られているが今から注文しても間に合わない。
 そこで、大雨の中ブックオフに行ってみた。大雨も大雨、土砂降りのさなかに着く。ズボンのすそをめくりあげて、安藤広重の五十三次のどこかの絵にあったように前のめりに走りながら店内に入った。しかしお目当ての本はない。古本屋に目当ての本を探しに行っても、たいていは外れなのだ。

 涼しい。昨日までが夏だとすると、今日はもう夏が終わった最初の雨のようだ。ブックオフからの帰り道、車を運転しながら、小学生のころには夏が始まった日が判ったな、と思う。いまは、夏が始まった日がどの日だったのかよく判らない。なのに小学生のころにはよく判らなかったと思う夏の終わりが判るようになった。そういう気がした。古い吉田美奈子の歌を聴いていた。どしゃぶりの中を自転車で走っていく人がいる。前の車が自転車を大きくよけて抜いた。私もそれに続く。

 帰宅して手を洗っていたら、そこにある私には何だかわからないボトルからしずくが垂れかけて固まっていた。

僕の夜―ロベール・クートラス作品集

僕の夜―ロベール・クートラス作品集