須田一政写真塾11月例会


 写真は2008年の11月に箱根芦ノ湖の朝霧を撮った写真をプリントアウトしたものが、およそ4年経つうちにインクがにじんでしまって色の濃い部分(シルエットになっていたボートや釣人)が広がってしまった、その状態をまた接写したものです。気味が悪いかもしれない。異世界から来たものが、それを検出する特殊なメガネをかけた途端に「露わに」なったかのような。そしてそういう気味の悪さを含めて、こういう奇妙な画像を作るのが面白い。

 2005年の7月に青山ブックセンターで、故・小島信夫保坂和志の対談を聞きにいったことがあった。そのときには最初は保坂さんが小島信夫著「菅野満子の手紙」のことなどを話し始めて、対談の話のとっかかりを作るような感じで、でも小島さんはなかなか話さずにいて、しけった花火みたいだったのだが、きっかけが何だったか忘れてしまったが(結局は徐々にだったのか)、後半は堰を切ったように小島さんが話し続けて、その中身の面白さは、言い回しや会場の聴衆の熱気やらも含めて、すごく面白かった。小島さんは(保坂さんも)小説のプロットを最初に構築するなんていうことは根っから考えてなくて、ずれて横滑りしていくその小説が、作家も最初に想定できないままどう広がって行き、その結果に面白さが結実することが「すごい」小説だと・・・こんな簡単な話じゃないし、こんな風にちょちょいとまとめてしまうのも「危険」なのだろうけれど、そういう「感じ」だった。しまいには、場合によっては評判を聞いてあれこれ推測したり妄想したりして、結局はその小説を読まなくても、その方がいいときもあるかもしらんなどという話も出ていた。小島信夫の4000枚の「別れる理由」は作家仲間や評論家や政治家Mから「あれは認めない」とずいぶんと言われて、それで別れた(仲たがいした?)仲間もいたような話もあったが、その小説を題材にした坪内祐三の評論が出て、その評論の感想を小島信夫自身が書いたものもあって、そういう一連の時間の流れで起きた出来事をひとくくりにして、小島さんはそれが(2005年時点での最新の)「別れる理由」という小説の現在だというようなことも言っていたかもしれない。

 須田一政写真塾にもう8年も行き続けていて、須田さんの写真(の理解)と、小島さんの小説(の理解)は結構似ているのではないか、とふと思った。

 ところで仲たがいと言えば、写真ではアラーキーとシノヤマキシンの「仲たがい事件」があったが、虚実の境をどこに敷くか、どこまで社会一般の常識の転覆に踏み込むべきか、というようなことだったとすると、まったく詳細は判らないが、その議論の根本は「別れぬ理由」をめぐるあれこれと似ているかもしれないなどと妄想してしまった。

 誰かの作品を一字一句そのまま書き写した小説があったとして、その書き写す作業でできた結局は丸写しの原稿は、その作業があったがゆえに新しい作品と言えるのか?
 普通の判断ならそれは当然「盗作」になるわけだが、それでいいのか?というちょっとした疑問も覚える。
 写真は目の前にある光景の一部を切り出す行為だから、目の前の光景に著作権的なものがあると盗作になるということで街中のポスターなんかを撮るとそういう騒動がときとして起こるわけだが、でも目の前にあるものである以上それは光景であってそこを見て何かを感じたら写真を撮りたくなるのはふつうのことだろう。森山さんはじめ多くの写真家がしょっちゅうポスターやらを接写するのはとても自然だと思うのだ。

 とかなんとか書いてきたのは、要するに屁理屈をでっちあげているのかもしれないわけで、実は今日の須田一政写真塾にはこのブログの11/6に載せたような、父が昭和30年代に撮った写真を約40枚持って行った。ほかに、最近PCのデータの中から見つけた2003年ころに家族で蔵王に行ったときの写真(このころ私はホックニーのようなフォトコラージュにはまっていて、一つの風景の写真をコラージュで作るために、一枚の中で作画しようとせず、機械的に目の前の風景を座標を追うように端から順に撮っていたのだが、そういう作画のない駒を今見ると面白いのがあってそういうの)を20枚ほど、それとこのまえの京都や奈良で撮った写真を30枚程、計90枚くらいを持って行った。父の撮った写真であっても、それが時を経て私の前に光景として現れ、私自身がそれをよいと思って選んで持ってきた、その行為があることでもしかしたら父の写真であると同時に私の写真と言っていいのではないか、と言ったら、須田先生も頷いていらっしゃったから少しほっとした。
 そしてたぶんそうされるだろうと思っていた通り、須田先生は、それらの写真をごちゃまぜにして並び順まで含めて選んでくださった。そのうえで「白い雲が流れるような穏やかさ」とか「記憶のさらに向こうにある(丸くなった)『想い出』なのに刺さってくる」などのコメントをいただいた。

 というようなことがあって、大雨の中を帰宅して、夜になって、少し前の写真を見直したりしていたら、時を経てインクの滲んでしまったインクジェットプリントがたくさんあって、上の写真のようなのも含めてちょっとおかしくなったプリントを接写して遊んでいるうちに雨が止んだ。

Clap Your Hands Say Yeah

Clap Your Hands Say Yeah

Veckatimest [解説・歌詞対訳付 / ボーナストラック収録 / 国内盤] (BRC228)

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松田聖子吉田拓郎南沙織のベスト盤を借りたときに、あと二枚借りたらちょうど千円だと言うので、この二枚も借りたのだが、今日は電車のなかでこればかり聞いていた。

 http://bld-gallery.jp/exhibition/121115sudaissei.html
 須田一政写真展「風姿花伝」完全版、銀座BLDギャラリーで開催中。完全新版の風姿花伝写真集も発刊されました。素晴らしいプリントと印刷のクオリティ。おすすめです。