人参


金美人参は一番一般的な人参よりも明るい色をしていて、人参臭さが少なく、そのままサラダで食べるでも、なんでも、癖がない。と、鎌倉農協直売所のカメラ趣味のお兄さんが教えてくれた。その人参を一本買い求め、一本をおまけに入れてもらった。しばらく写真の話をしてから、由比ヶ浜まで歩いて、理由はわからないが大泣きしている一つか二つの男の子を連れた父親を見て、私の息子が同じ頃にはじめて海を見て同じように怖がったことや、私の娘の方は一心に波打ち際に向かって走ったことを思い出した。近くのコンビニでボールペンとメモ用紙を買い、そこにこのブログのタイトルを書いた。再び農協の直売所に戻り、先ほど話したお兄さんに渡した。私の癖のある散漫な写真を眺めてくれただろうか?
今日は天皇誕生日で、だから、平成の天皇山羊座生まれ。私と同じ。
夜に宇都宮に移動する。その前にクリスマスも近いってことで、日本におけるこれはもう(一般的には)季節の重要行事の一つで、特に宗教への信心とは無関係に、どちらかと言えば経済主動で確立された「過ごし方」があるから、それに従って家族の女性陣が準備していたローストチキンとケーキを食べてから宇都宮に移動する。私の子供のころ、父はローストチキンなどと言わず、ダイレクトに「鳥の足」って言っていた。
「今日は何を食べようか、鳥の足でも買おうか?」「あ、鳥の足、食べたい!やったぁ」
「鳥の足」はその頃に住んでいた平塚市の駅前にある肉屋の外に置かれたオーブンの中でぐるぐる回っていたものだ。
買って帰った金美人参を妻は早速に料理をする。料理と言っても、鳥の足と一緒に食べるサラダにするそうで、私は調理道具の名前も、その切り方の名前も、その料理の名前も、なんと書けば伝わるのかわからないのだが、人参の長手方向に薄く、鉋で材木の表面を舐めるように、薄くスライスをし始めた。クリスマスとは無関係に、妻が人参を削いで行くのを見ていたら、それが12月の風景として、しっくり見えるのだった。調べてみると人参の旬は今頃だそうだ。そんなこと調べなくても知っていなければいけない気がするが、知らなかったのだ。でも、人参を料理する妻が、季節の風景のように見えたのだからなにか小さい頃に刷り込まれた風景が、心の一番奥にあるのかもしれない。
その日に食べたサラダも、その後日に食べたスティックサラダも、サクサクとした歯触りで、ほんのりと甘くて、美味しい。