無題


何年か前に急死した映画監督の市川準の作品が好きだった。ざわざわ下北沢トキワ荘の青春、そして、大阪物語、以上の三本が特に好きだ。そしてその三本はDVDになってない。
その映画「大阪物語」は主演の女子中学生役をこの映画がもしかしてデビュー作かな、若かりし池脇千鶴が熱演している。行方不明になった漫才師の、沢田研二が演ずる父親を探して、同級生の男の子と二人で、真夏の、夏休みの大阪を汗まみれでさ迷う。その数日間に色々な、ドロドロしていたり欲望が渦巻いていたり、諦めが蔓延していたり、暴力が噴出しそうになっていたりと、都市と真夏と大人に直面する。するが、彼等は危機一髪だろうか?それをかいくぐって多分いろんなことを考えて、多分目に見えない何かから脱皮をしていたのだろう。時間を割いた台詞のやり取りのある場面の他に、動きのあるカメラワークで、短いカットを繋ぎ、ときに風景をはさみながら、印象として「駆け抜けて、かいくぐって、泳ぎわたる」彼等の映像は誰もが持っている若かりし夏の思い出とあいまって高揚した気分を呼び覚まされて爽快だ。今しかない若い人だけの時間だ。流れる真心ブラザーズサマーヌードも合っている。
これは大阪物語と言う固有の物語であると同時にどこにでも誰にもある、もしくはあった、夏のことだ。かけがえのない。

この夏にその大阪で二人の中学生に起きた悲惨な事件のことを思うと、だから、怒りに震えるし涙が抑えられない。
悔しい。