冬のサーファー

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新しく中古で買ったズームレンズ、と言うのはなにか癖のあるレトロレンズでも高価な大口径単焦点でもなくて、いわゆるカメラとキットを組まれる便利ズームと呼ばれている類のもの。APS-Cセンサーサイズのミラーレスカメラ用。フルフレームサイズのミラーレスと、APS-Cサイズのミラーレスと、1インチセンサーのコンデジと、主に稼働してるのはこの三台で、平日の会社のある日にも必ずバッグに入れてあるのはコンデジで、休日に散歩をするときはその日の気分でカメラを選んでいる感じ。昨日と今日はこの便利ズームを買ったこともありAPS-Cのミラーレスカメラで、これなんか発売したのはたぶん2015年か2016年くらいのカメラだから最新機種のように、瞳とか動物とか電車とかを「被写体認識」して高速にピントを捕獲してサイレントに秒のあいだに何コマも写真が撮れてしまうなんて言うことは無論出来ないけれど、このブログにずっと載せているような写真を撮るわけだから、そういう猛禽類のようなスポーツカーのような研ぎ澄まされた勢いある機能は宝の持ち腐れになってしまい、却って疲れちゃう感じかもしれないな。

海まで歩く。今日はどうやらサーファーにとって良い波が入っているらしい。黒いシルエットになって逆光の海にたくさんのサーファーが浮いていて、良い波を待っている。見ていると、ときどき、うまく波に乗ってすーっと波打ち際まで滑ってくる。そういう良き波はでも次々やって来るわけではない。二名か三名が同じ波を捕まえて、すーっときれいに、いや、ときどきターンなども交える方もいて、滑って来るのを見て、では次のそういう場面を写真に撮ろうかなとカメラを身構えるが、これが意外とそういう波が来ないものらしく、二分か三分待っても、たまたま見たそういう場面が再現されることはなく、撮る方は執念があるわけでなく気まぐれなものだから、もう待つのをやめてしまう。そしてまたとぼとぼと海沿いのサイクリング&ウォーキング用の路を東へと歩く。

荒井由実松任谷にもうなってたかしら?)は「真冬のサーファー」の歌詞で

♪ 真冬のサーファーはまるでカラスの群れのようね ♪

と歌っていて、私はずーっと何十年もこの曲を聴くと曇天の暗い冬の日の海岸を思い浮かべていたが、それはカラスという鳥の持っている印象からだったのか、それとも歌詞のなかに「灰色の風」とあるからなのか。湘南の真冬の海は、西高東低の冬型であればたいていはこんな風に逆光に輝いていて、これだって黒く見えるサーファーたちは、たしかにカラスの群れのようだ。ユーミンが思い描いていた海岸は晴れなのか曇天だったのか?

茅ケ崎市に住んでいても、あるいは2歳から15歳まで平塚市の海の近くに住んでいても、サーフィンはやったことがないし、そもそも泳ぐことも苦手だから、海との付き合いは釣りこそしたけど海の中に入ることなんてなかった。サーファーの方は、テイクオフして波に乗って来るときが爽快なんだろう。それとともに、砂浜からちょっとの場所とはいえ、そもそも足のつかない海の上に一人でいるというだけで、「人が基本的にはほぼほぼ安心に暮らせる生活圏」からはみ出て、ちょっとの恐怖心や普段以上の五感の動員や、そういうことに身をおいている、そこが実はすごいことなのかもしれない、などと想像する。やってないから想像の域を出ない。

そして私は茅ヶ崎駅の方へ海から離れて家へと戻っていく。途中で自家焙煎コーヒースタンドの小さな店内のベンチに腰掛けてコーヒーを飲む。コーヒーを飲む前までは陽射しがあり、なんだか天気予報の言うことと違って汗ばむほどに暖かいなと思う。コーヒーを飲み終えて店を出ると太陽が雲に隠されていて、風で飛ばされてきたのかほんの少しだけだけど雪が舞っていた。するとさっきまで感じていた暖かさは消えて、寒さが急に身に沁みる。指先が冷たくなるからポケットに手を入れると、数日前に何かを買ったときに渡されたレシートをくしゃくしゃに丸めた紙ごみが指に触れる。道に捨てるわけにもいかないし、すぐ忘れてしまうから、こういう紙ごみって何日かあとにもまた指先に触れて、なんだかちょっとだけ滅入ってしまう方向に働くんだよなあ・・・だからせめてポケットから出しておこう、などと思ったりしている。こういうのが些細な出来事なんだろう。

このブログにスターマークを押してくださった若い方のブログを見に行って、そこに紹介されていたtetoという日本のロックバンドの曲をSpotifyで再生し、ワイヤレスイヤホンでずっと聴いていた(いいですね!このバンド)が、右耳のイヤホンがすぐに耳から外れてしまうのは、あのゴムでできた丸っこいイヤホンの装着部位のサイズが私の耳に大きすぎるからなのだろうか。だからときどき抜け落ちる前に右耳にイヤホンをぎゅっと押し込む。そうだな、これは少し緩くなって頻繁に落ちてしまう眼鏡を頻繁に持ち上げるのと似ているな、と思う。

昨晩はこのためにワイヤレスイヤホンとスマホをいまさらながらペアリングしたのだった。最初うまくいかなかったがちゃんと出来た。なにがまずくてうまくいかなくて、なにが良くてちゃんと出来たのか、こういうことって意外にわからないまま、なんとなく出来ている場合がありますね。