台風のあとに

 台風が通り過ぎ、午後4時過ぎに少しだけ青空が見えた。コンパクトデジタルカメラを首にぶら下げ、自転車で海の方へ少し漕いだが、帰りが暗くなるかもしれないのに自転車用の(いつもは取り外してある)LEDランプを部屋から持って出るのを忘れていたことに気が付いて、引き返した。駐輪場に自転車をとめて自宅にランプを取りに戻るのが面倒になり、自転車ではなく徒歩で海まで歩くことにした。気温はそれほど高くないが、湿度が高いせいか歩いていると汗がだらだらと流れる。それでも昨日が秋分の日だったから、もう夏至から冬至に向かう半分を越えた。海には思いのほかたくさんの人が集まっていた。台風の雨が通り過ぎ、それぞれの理由で海を眺めに来た人たち。サーファーは波の様子を見に来ていた。カメラマンは雲が夕焼けに燃えるのを期待して三脚を据えていた、カップルは少しだけオレンジに染まった雲を背景にスマホで記念写真を撮っていた。あるいは砂浜でヨガに励む女性のグループもいた。犬を連れている人は、雨が上がり、いっせいに散歩に出たのだろう。大きな犬は飼い主を引っ張ってはしゃぐ。空の色がきれい。砂浜には流木が打ち上げられている。昨日今日の台風ではなく、先週のもっと大きな台風の波が運んだものだろうか。夜になれば、この流木で焚火をする人もいるだろうか。でもまだ湿っているからなかなか火が付かないんじゃないか。あぁ、私はダメだなあ・・・火が付かないことを心配するんじゃなくて、どうせ「思い描いている」だけなんだから、もう火が燃えていることにして、そこで何かについて誰かと話すことを、話すことがどんなにくだらなくてどうでもいいことでも、それでいいんだと、そういう風に思わないんだろうか。しばらく海沿いに東へ歩き、茅ヶ崎駅に真っ直ぐ突き当たる道で戻る。海はもう背中側だ。歩いているそのときは、もう夜だった。