飲んだ後に遠くへ行きたくなる街

 ここのところコロナ感染者数が前週同曜日比でプラスになっているが、職場での雰囲気はだいぶ緩和ムードで、週に一度くらい四人以内の飲み会が続いていたが、今晩は六人で一間貸し切りでの飲み会があった。場所は都内は自由が丘の、戦前から営業が続いている名の知れた居酒屋で、自家製のちりめんじゃこ、万願寺唐辛子、鱧の天ぷら、だし巻き、お造り、焼き茄子、鱧とじゅん菜の吸い物、小鯵のフライ、などなど。自分はメニューを見ないで、頼むものは誰かに任せ、出てくるものを順に食べていたが、季節感もあり、流石の美味しだった。

 飲み会のあと、駅の改札を通って振り返ると若い方から四人は、このあと軽くラーメンでも食べに行こうという算段らしく、笑顔を浮かべて手を降ってくれていた。わたしは、渋谷の方に向かう電車に乗るひとつ下のI君と握手をして別れ、横浜方面に向かう電車に乗った。急ぐ必要はないから、普通に乗って座って行った。途中駅で二回、快速か快速特急か特急か、どの順番で早いのかも知らない種類の各駅停車ではない電車に抜かれた。

 この路線のもっと東京寄りの駅にある事業所に通っていたことがあって、あの日々は片道1.5時間の通勤がそんなに長いとも思わず、満員電車に立っていても、ぎりぎりの隙間で読書をしたり、途中駅で気まぐれに降りて、フイルムカメラで駅の周りをスナップしたりした。今日は、あぁ、こんなに遠かったか・・・と思った。

 自由が丘の駅前で、今日のような飲み会のあとに、アルコールで火照った顔や身体でふらついているその前を、印象としては無音な中、すーっとレガシーツーリングワゴンが通過していく、その荷室には渓流釣りの竿が置かれていた。それが30年近く前のことで、街を歩いていてふと出会った車に、ひとめぼれしたのはそのときが初めてで、そのあとレガシーツーリングワゴンを手に入れて数年のあいだ乗っていた。(この話はこのブログに何回か書いただろう)

 映画の(小説の原作もそうだったかな?)「きょうのできごと」では、京都の一人の学生の家に仲間が集まって飲んだりしゃべったりし一日を過ごしていき、真夜中近くになってから、砂浜に乗り上げた鯨を見に行こうということになって自動車に乗り込み、夜を徹して日本海まで運転していく。そのメインストーリーに、建物の隙間に挟まってしまったチンピラ風の兄さんの話や、すぐにお腹が痛くなる男の子と気が強そうな女の子のカップルの動物園デートの話が関連して、ある日のできごとを辿っていく映画だが、あの飲んだあとに見たレガシーは、映画の中の仲間が日本海に向かうように、飲んで騒いだこの場所はこれはこれで楽しく、仲間の集う安心のホームタウンだけれど、さて、レガシーが通り過ぎたことをきっかけにして、そこから猛烈にここではないどこかに行きたい、というような心の動きがある、という体験だった。

 どこにでもある同じような私鉄沿線のちょっと大きなターミナル駅の駅の周りの飲食街だけれど、自由が丘には、ここではないどこかへ誘われるような気分が起きるなにかがあるかもしれない。